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戦争や震災…伝える使命 大林監督「野のなななのか」 31日から広島 不思議な演出に思い込め

 尾道市出身の大林宣彦監督(76)が最新作「野のなななのか」を完成させた。知られざる敗戦後の歴史や東日本大震災後の在り方…。スクリーンに込められたメッセージが、見る者の心を揺さぶる。大林監督は「理解し感心するのでなく、訳もなく感動して涙が流れるような映画にしたかった」と語る。(余村泰樹)

 「映画は風化しないジャーナリズム」と大林監督。「眉をひそめたいほど重いテーマや忘れた方が楽だという悲しくつらい出来事も、映画で語ると不思議でおもしろく、楽しくさえある。だからいつまでも考えることができる」と説く。

 旧ソ連と日本との戦争がテーマ。戦争に傷ついた北海道芦別市の老人(品川徹)の死をきっかけに、ゆかりある人たちが集まり、交流する。玉音放送後、9月になっても戦争状態が続いていた樺太の歴史や戦争の理不尽さをあぶり出す。

 なななのかは「四十九日」。死者がこの世とあの世の中間をさまよう期間だ。品川演じる老人、若い頃関わりのあった女性役の常盤貴子や安達祐実…。生と死の境界を行き来する存在が登場する。品川が朗読する中原中也の詩と相まって不思議な余韻を生む。

 「シネマゲルニカ」。ドイツ軍に空爆されたスペインの悲劇を描いたピカソの作品になぞらえ、今回の演出法を語る大林監督。「子どもが描いたような不思議な絵だからこそ、ピカソの願いは未来にまで伝わる」

 なななのかにはもう一つの意味も。「3・11から今、なななのかを迎える時期。さまよえるときが終わり、一つの道筋をきちっと見つけるとき」。東日本大震災を経験したにもかかわらず、再び原子力に頼ろうとする日本。その歩みは間違っていないか―。出演者の言葉を通じ問い掛ける。

 新潟県長岡市の空襲や中越地震、東日本大震災を取り上げた前作「この空の花―長岡花火物語」(2011年製作)の姉妹作と位置づける。「論文やエッセーのような映画。戦争で生き残り、3・11で生き残った私がやるべき作品」と大林監督。「アートの力を生かし、知られざる、忘れられた日本の歴史を映画で伝えていきたい」。戦後の日本をつくってきた世代として強い思いを込める。

 31日から、広島市中区の八丁座で上映する。

(2014年5月10日朝刊掲載)

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