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「広島に原爆を落とす日」つかこうへいさんの姿勢貫く 演出の岡村俊一さん

■記者 岡田浩平

演出の岡村俊一 冷静に歴史を見つめる

 劇作家つかこうへいさん(10日死去)作の「広島に原爆を落とす日」が8月6日から東京、大阪で上演される。広島などでの前回公演から12年。つかの同名小説を基にリニューアルした「完全版」としてあらためて世に問う。追悼公演ともなった舞台を手がける被爆2世の演出家、岡村俊一さん(48)=広島市南区出身=に思いを聞いた。

 ―演劇にどんな意味を込めましたか。
 この演劇は反戦作品ではない。戦争を考える、いわば思考の「ドリル」だ。原爆は勝手に落ちたのではなく、誰かの意思で戦争が起き、広島に落とされた。それをたどるシミュレーションとして演劇は分かりやすいのではないか。

 ―原爆を考えるには多様な視点が必要ということですか。 
 「はだしのゲン」の中沢啓治さんのように原爆被害を直接描いた仕事はすごい。死んだ者たちの怒りがストレートに伝わってくる。原爆詩の朗読もそうだ。

 ただそれだけがオーソドックスになると、日本人は被害者意識にとらわれているという世界からの見方も変わらない。高度経済成長を経て、日本人なりに冷静に歴史を見つめる。そんな視点があってもいいのではないか。

 ―追悼の舞台になります。
 大切なのは演劇としての正しさを貫き、つかこうへいさんの姿勢を守り抜くこと。そして、見ていただける人だけでなく、原爆を非難する人、無視する人を含め「8月6日ぐらいはそんなことちゃんと考えとけよ、日本人なら」という感じのつかさんのような言い放ち方かな。

 ―被爆2世の演出家として、今後、ヒロシマをどう伝えますか。
 「世間がこう言っている」と一般論の言葉だけが残っていく危険性を感じている。個々の論理や事情、主役、脇役それぞれの人生を同時に思いやれるフィクションが大切だと思う。一人一人の人間を描く仕事を続けていきたい。

 「広島に原爆を落とす日」 広島で生まれ育った海軍少佐の犬子(筧利夫)と日本のスパイ一族の娘、百合子(仲間リサ)との愛の物語。引き裂かれた2人の運命に重ねて原爆投下、敗戦を描く。1979年につかこうへい演出で初演。1984年に同名の小説を発表後、1998年には広島市内でも上演された。

 8月6~22日は東京都渋谷区のシアターコクーン、27~29日は大阪市中央区の森ノ宮ピロティホールで上演。S席9500円、A席7500円、コクーンシート5千円(東京のみ)。

(2010年7月31日朝刊掲載)

 

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