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核廃絶道筋 対立際立つ NPT準備委総括 被爆地の訴え共感呼ぶ

 2015年核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた第3回準備委員会は、米ニューヨークの国連本部での2週間にわたる日程を終え、9日(日本時間10日未明)幕を下ろした。核軍縮の停滞、核拡散の脅威を背景に、各国の主張が飛び交った議論を振り返る。 (ニューヨーク発 田中美千子)

■核軍縮

 非政府組織(NGO)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の集計では、準備委で核兵器の非人道性に懸念を表明した国は114に上った。廃絶を急ぐ非核兵器保有国は「核兵器禁止条約の議論を」などと非合法化を迫った。これに対し、核保有5大国のうち、中国を除く4カ国がこの議論に乗った。「段階的な軍縮しか道はない」(米国)「違法化につなげようとする動きは軍縮の妨げになる」(ロシア)―。廃絶の道筋をめぐる意見の対立は際立った。

 保有国は初めて共通様式の軍縮報告書を提出したが、新たな中身はなく、中国は核弾頭数も明かさなかった。一方で保有国は6日、カザフスタンなど5カ国に対する核不使用などの義務を負う中央アジア非核地帯条約の議定書に署名。そこには会期中に軍縮の前進をアピールする意図が透けた。エンリケ・ロマン・モレイ議長は閉幕後の記者会見で「世界を何度も破壊できるほどの核弾頭が存在する。廃絶に向けた闘いをやめてはならない」と訴えた。

■中東問題

 NPT体制を左右し続ける中東地域。10年の前回再検討会議は最終文書で、中東の非大量破壊兵器地帯化に向けた国際会議を12年中に開くよう明記したが、いまだ実現していない。このままでは事実上の核兵器保有国イスラエルと対立するアラブ諸国の反発が強まり、再検討会議の混乱は避けられない。

 準備委では、国際会議の仲介役のフィンランドは14年中の開催に意欲を表明。アラブ側は挑発的な言動を控えた。複数の専門家は「今はNPT加盟国の分裂を避けようと各国が自制した」とみる。

■勧告

 期間中、再検討会議の式次第に当たる「議題」を開幕早々に採択した。討議テーマや道筋を示す「勧告」については議長が7日に草案を発表したが、8日の全体会議で修正要求が相次ぎ、あっさり採択をあきらめた。ただこれまでに採択した例はなく「もともと期待値は低かった」(外交筋)という。

 代わりとなる議長の「作業文書」は草案を基に「核軍縮」など5項目で構成した。再検討会議で核保有国による報告書などを精査し、軍縮義務の完全な履行のための次のステップを検討するよう促している。国連の潘基文(バンキムン)事務総長の核軍縮提案に触れ、核兵器のない世界を達成、維持する法的な枠組みの交渉検討にも言及した。

■ヒロシマから

 広島県の湯崎英彦知事、広島市の松井一実市長が初めてそろって準備委に参加した。被爆地の高校生、大学生も同行し早い廃絶を訴えた。アイルランド外務省のブレフニー・オライリー軍縮不拡散部長は被爆地の訴えに「感銘を受けた。核兵器は使われてはいけないとの思いを強くした」。議長、米国のローズ・ガテマラー国務次官…。被爆地と思いを重ねる発言が目立った準備委だった。

【解説】非合法化 議論広がる

 2015年のNPT再検討会議に向けた第3回準備委員会は表面上、目立った波乱もなく終わった。その中で、核兵器の非人道性をてこにした非合法化の議論は、非核兵器保有国だけでなく、抵抗する保有国を巻き込み、じわりと広がったといえる。「核兵器のない世界」へ、来年の再検討会議の成否は、非合法化にいかに近づけるかが一つの鍵になる。

 「建設的」「スムーズ」「自制的」…。準備委終了後、そんな声が出席者から聞こえた。評価ともとれるが、深刻な意見対立につながる論点で深入りを避け、準備委の「分裂」を避けるように各国が立ち回った裏返しともとれる。

 各国の思惑が垣間見えたのが、核兵器の非人道性をめぐる議論だ。核兵器禁止条約や、今ある核兵器の禁止といった選択肢を挙げ、法的な規制を設けるよう訴える国が相次いだ。

 中心は、核軍縮の停滞にいら立ちを募らせ、12年の第1回準備委以降、4度にわたり非人道性を訴える共同声明を発表してきたメキシコやアイルランドなどの国々だ。今回は声明こそ出さなかったが、新たなステージに、にじり寄ろうとの姿勢がにじんだ。

 核兵器の法的な規制の必要性を訴えたメキシコの大使は中国新聞の取材に対し「複雑なプロセス」と認めつつも、「核兵器保有国の軍縮準備が整うのを座して待っておくことはもうできない」と強調。決意の固さをうかがわせた。

 一方の保有国。「現実的、段階的な核軍縮」との主張を曲げないが、議論には応じた。「核軍縮の停滞へのいら立ちは共有している」(英国)「破滅的な健康影響を含む非人道的な影響を深く理解する」(米国)とも述べ、非合法化を目指す国に配慮した。

 そのような中、日本の外務省幹部も、非合法化について「もはや保有国にも捨て置けない論点となった。来年の再検討会議に向け、日本も検討していくことになる」との見方を示した。来年は被爆70年。「核兵器のない世界」を開く芽を、摘み取るわけにはいかない。安全保障を「核の傘」に頼っている被爆国のこの1年の議論に、期待したい。

(2014年5月11日朝刊掲載)

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