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社説・コラム

天風録 「宇宙船内『和の心』」

 相撲のシコを踏んで宙をくるり回る。かと思えばヨガのポーズを逆立ちで決める。ふわふわ無重力の宇宙船内は、しぐさもユーモラスになる。14日に帰還する日本人初の国際宇宙ステーション(ISS)船長若田光一さんだ▲数カ月もの緊張を強いられた過酷な任務を、「和の心」でこなしてきた。育った環境も文化も異なる米国やロシアの乗組員と、いつも笑顔で向き合う。チーム力を最大限にするため、船内を協調の精神で満たしてきた▲乱れた地上の「和」はどう見えているだろうか。ウクライナ情勢をめぐり米ロが対立する。宇宙分野も含めて制裁を決めた米国に、ロシア副首相はISS船内での報復を口にしたとの物騒なニュースが伝わってきた。若田さんも気が気でなかろう▲「もはや戻る道はない」とウクライナ東部の親ロ派が住民投票を強行しようとすれば、「憲法違反だ」と政権側が応酬する。本格的な内戦に突入するのだろうか。宇宙と比べればちっぽけな地球号に、名船長がいない▲相撲で長らく勝負がつかない時、行司がいったん四つをほどく。力士に水を含ませて落ち着かせることから、名付けて「水入り」。ウクライナに、そんな水はないものか。

(2014年5月11日朝刊掲載)

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