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社説・コラム

社説 NPT準備委閉幕 核廃絶へ前進続けよう

 核兵器廃絶というゴールはまだ遠い。しかし、歩むべき道筋はくっきりと見えてきた。

 5年に1度、次は来年開かれる核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けた第3回準備委員会が閉幕した。成功と呼べる状況には至らず、被爆70年の節目を迎える準備がこれで万端整ったとはいえそうにない。

 だが「核なき世界」を求める機運が後戻りしたわけではなかろう。むしろ課題や障壁が鮮明になったのではないか。

 被爆地は核兵器禁止条約の実現を期し、うまずたゆまず、国際世論への発信を続けよう。

 今回の準備委を総括すれば、「不完全燃焼」の一言となろう。来年の再検討会議の討議テーマなどを盛り込む「勧告」の採択を土壇場であっさり見送ったことが象徴だ。

 事前に議長草案は示されたが、核兵器の非人道性をどう記述するかなど、加盟国間の意見の違いが埋まらなかった。

 とはいえ、これまでも同種の勧告が採択されたことはない。各加盟国は自国の主張を強く通すよりも、まずは来年に向けた様子見だったのではないか。

 それはウクライナ情勢をめぐる議論からもうかがえた。ロシアとそれ以外の国が意見をたたかわせる場面は確かにあった。しかし深入りしすぎて準備委を決裂させる事態は避けようとの自制が働いたようだ。

 一方、核兵器保有5大国が足並みをそろえる局面もあった。準備委の会期中、中央アジア非核地帯条約の議定書に調印したことだ。5カ国はさらに、核軍縮の進展具合を示す初の報告書をそろって準備委に示した。

 報告書の中身はむろん、お粗末というほかない。核弾頭数をわずかに減らしただけ。中国は具体的な弾頭数すら示さなかった。これでは、中央アジアの非核地帯を核で威嚇しないという約束も空虚に響きはしないか。

 持つ国の怠慢に、持たない国のいらだちは強まるばかり。マーシャル諸島が準備委の直前、国際司法裁判所に保有国を提訴したのも、NPTが課す核軍縮義務と現実との隔たりに対する問題提起にほかならない。

 このままNPT体制に依存しても廃絶はおろか核軍縮すら進まず、核拡散の悪夢ばかりが続きそう―。即時廃絶を求める非保有国が今回、核兵器禁止条約の交渉開始を訴えたのも、危機感の裏返しだ。

 そもそもNPTの会合で別の条約を話題にすること自体、NPTの「限界」を物語る。まずは保有国の自覚が問われよう。

 再検討会議は半面、「可能性」も秘める。全会一致が原則で、1カ国でも反対すれば何も決まらない。ところが逆に、小国が集まり圧倒的な説得力で大国を包囲すれば、ダイナミックに会議を動かすことができる。

 実際に2000年は全会一致で核兵器廃絶を明確に約束した。10年の最終文書は核兵器の非人道性を明記した。

 来年の会議は、さらに非人道性の議論を深め、できれば禁止条約の交渉開始で合意にこぎつけたいところだ。

 そのために被爆地は「核と人類は共存できない」と世界に伝える。各国の為政者に被爆地への訪問を呼びかける。禁止条約に後ろ向きな日本政府の姿勢を変えるには、国際世論のうねりを高めるしかあるまい。

(2014年5月11日朝刊掲載)

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