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市民の声 核廃絶への力 広島で国際シンポ

■記者 林淳一郎

 広島市立大広島平和研究所と中国新聞社ヒロシマ平和メディアセンターは31日、中区の広島国際会議場で、国際シンポジウム「核兵器廃絶に向けて私たちは何をすべきか」を開いた。市民約300人が参加。米国や韓国、被爆地広島・長崎の専門家が廃絶への具体策や市民の役割について意見を交わした。

 基調講演で土山秀夫・元長崎大学長は、5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で合意した最終文書は「妥協の産物」と指摘。核兵器禁止条約の必要性を強調し「市民の声を日本政府や核保有国にぶつけるのが実現の近道」と述べた。米国の政治学者・評論家で沖縄在住のダグラス・ラミス氏は「原爆投下は最大のテロ。『核の傘』は『テロの傘』だ」と訴えた。

 平和研の水本和実教授を司会にしたパネル討議では、人材育成コンサルタントの辛淑玉(シンスゴ)氏が日本人の加害、被害者意識に触れ「目の前の被害を放置すれば加害者になる。絶えず自分の意見を言うことが大事」。平和研の金聖哲(キムスンチュル)教授は「広島と長崎がアジアの声の受け入れ口になってほしい」と求めた。

 米国出身で平和研のロバート・ジェイコブズ准教授は、軍事大国米国の姿とオバマ大統領が唱える「核兵器のない世界」について解説。「リーダーシップばかり期待せず、米国も市民から変化の動きを起こさなければ」と力を込めた。

 中国新聞の金崎由美記者は、再検討会議取材を振り返り「『核兵器はいらない』という市民の訴えが肝心」と語った。


『この人』 国際シンポで基調講演した政治学者 ダグラス・ラミスさん


■記者 金崎由美

原爆投下は最大のテロ

 「政治思想史を研究する者の大事な仕事は、言葉を正すこと。『テロ』という言葉の本来の定義では、原爆投下こそが最大のテロだった」  広島国際会議場(広島市中区)で31日にあった国際シンポジウム「核兵器廃絶に向けて私たちは何をすべきか」で「テロとの戦い」に突き進んだ米国の矛盾をやゆした。

 もともと18世紀のフランスの恐怖政治を指したという「テロ」。国家だろうと国家でなかろうと、市民を対象にした無差別攻撃は恐怖を呼ぶテロとなる。米国が本当にテロと戦うなら、その戦うべき相手は米国自身だ―。「視点を変えれば、いつもの物事でもまったく違って見えることがある」

 8歳だった1945年8月。原爆を投下された日本が無条件降伏し、生まれ故郷の米サンフランシスコで町中が歓喜にわいたことを鮮明に覚えている。後に原爆がもたらした破壊的な被害を知った衝撃が、戦争という暴力を問う原点となった。

 米国がベトナム戦争に突入していった60年から1年間、海兵隊員として占領下の沖縄に赴任。津田塾大教授を2000年に退職した後、妻の古里沖縄に再び暮らす。

 憲法をめぐる発言などでも知られる。「護憲は現状維持。平和外交を掲げる前文と9条を『実現』しない限り、日米安保は続き、核の傘をたためない」と問いかける。

(2010年8月1日朝刊掲載)

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