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社説・コラム

天風録 「一本松の2世」

 松杉をほめてや風のかをる音(芭蕉)。風薫る5月も、はや半ば近い。花粉に悩まされ通しだったご同輩、息をスースー吸える解放感に安らいでいるだろうか。週末に、中国山地へと恐る恐る足を延ばしてみた▲島根県邑南町の小学校で運動場の真ん中に立つ樹齢130年近い一本松が枯れた。名残尽きない住民の姿に、かつて小欄で触れたことがある。あれから5年余りたつ。老い松の2世がどうなっているのか、気になった▲盛り土に苗木が2本。枝葉を伸ばし、根を張っている。先代の時と変わらず、トラックの白線が取り囲むように引かれている。駆けっこの最中も、子どもたちは見守り続けてきたのだろう。若松の背丈はとっくに2メートル近い▲こんな都々逸がある。〽松という字は仲良いあいだ、キミ(公)とボク(木)との差し向かい~。人々の心がボクの方に向いているか。思いを養分とし、年輪を刻む木なのかもしれない▲風雪に負けず青々としている。そこに変わらぬ心ばえを見て取るからこそ、人は松の緑を喜ぶのだろう。広島市の平和記念公園で先週、日韓友好を誓うしるしの松が消えていた。心配は要るまい。思いが途切れぬ限り、いつか根は張る。

(2014年5月12日朝刊掲載)

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