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社説・コラム

社説 ウクライナ情勢 大統領選の円滑実施を

 ウクライナ情勢が混迷の度合いを深めている。政権側と親ロシア派武装集団との衝突は収まらず、ここに来て死傷者が急増してきた。

 東部2州では親ロ派が住民投票を強行し、9割が同地域の自治権拡大に賛成したという。

 法的根拠を欠く投票だが、親ロ派の勢いが増し、政権側との対立がさらに先鋭化する可能性がある。このまま国家の分裂につながる懸念も高まる。

 もはや米ロを含む4者で合意し、暴力の自制を全当事者に求めた4月のジュネーブ合意は空文化したと言わざるを得ない。

 今回の投票は、異常な状況下で実施されたといえる。

 ウクライナ中央選管が選挙人名簿の利用を認めなかったため、主催者側は有権者数も正確にはつかめなかった。投票所では身分証明書を提示すれば投票でき、複数カ所を回って二重投票をした人がいた可能性もある。公正な投票とはいえまい。

 親ロ派と治安部隊が衝突して銃撃戦となった投票所もあり、正当性のある投票とは程遠い。

 一方、ウクライナ政権側も、このままの姿勢で事態が解決するのは難しいと認識すべきであろう。

 これまで政府は、親ロ派側を「テロリスト」と断定し、力による封じ込めを続けてきた。こうした事態がさらなる報復を招いた。暴力の連鎖は、誰にとっても悲劇しかもたらさないことは、歴史が証明していよう。政権側も、地方分権や少数派の権利保護などについて親ロ派の意見に耳を傾け、対話によって武装解除を図る努力が求められていると肝に銘じてほしい。

 14日には、国民対話の場として欧州安保協力機構(OSCE)が提唱した「円卓会議」が開かれる。各地域の全政治勢力の代表者や市民らが参加するという。ただ政権側は、親ロ側が武装解除することが会議開催の条件とするなど、予定通り開かれるかも見通せない。現段階で会議の進展は不透明でもある。

 だからこそ国際社会が担うべき責務は重い。世界の秩序や経済に与えるリスクは、極めて大きいからである。

 経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会は先日、ウクライナ情勢について「重大な景気下振れリスクが残る」と懸念を示した。欧州連合(EU)は、天然ガスの3割をロシアからの輸入に頼り、その大部分はウクライナのパイプラインを通る。仮に内戦となれば、EU全体のエネルギー問題、そして世界経済に直結することなどを踏まえたに違いない。

 まず国際社会は、緊張緩和に向けてロシアがより積極的に動くよう求めるべきであろう。

 プーチン政権は今回の住民投票の延期を求めるなど、一定に距離を置く姿勢も見える。そうした対応では物足りない。親ロ派への影響力を駆使し、ウクライナ政権側と対話で乗り越えるよう圧力を強めてもらいたい。

 さらに、25日にある大統領選を円滑に実施するための支援も国際社会に求められる。国民が暴力におびえることなく安全に投票できる環境を早期に整えることが重要である。

 日本も国際選挙監視団の要員を派遣するという。民意で政権を選び、議会の議論を通じて対話することの大切さを粘り強く訴え続けたい。

(2014年5月13日朝刊掲載)

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