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原爆症 相次ぐ逆転認定 新基準で申請却下の被爆者訴訟 国への反発強める

 昨年末に改定された原爆症認定制度の新基準で再審査しても認定されなかった被爆者が、訴訟で原爆症と認められるケースが相次いでいる。13日には国会でこの問題が取り上げられ、新基準の妥当性が議論になった。新基準に否定的だった被爆者の反発は一層強まっている。

 新基準は、心筋梗塞などがん以外の主な病気で、認定要件から「放射線起因性(原爆放射線と病気との関連性)が認められる」との文言を削除する代わりに、被爆の距離条件を「約2キロ以内」と従来より狭めるなどした。新基準になってから判決が出た訴訟は、大阪地裁の2件と熊本地裁の計3件。認定を争った原告14人中11人が勝訴した。

 国は旧基準時に提訴した被爆者を率先して新基準で再審査したが、いずれも原爆症と認めていなかった。

 13日の参院厚生労働委員会では、共産党の小池晃氏が相次ぐ被爆者側の勝訴に「新基準が極めて不十分だと示している」と追及。被爆者の高齢化を踏まえ、「いたずらに争い続けるのは人道に反する。政治の決断が求められている」と、超党派での制度見直しを呼び掛けた。

 田村憲久厚生労働相は「いずれも新基準が決まる前に結審し、新基準の下で行われた裁判ではない」と反論。新基準の見直しを否定し、今後の訴訟を見守る姿勢を重ねて強調した。

 国は、控訴期限を迎えた9人のうち4人について控訴。敗訴を全面的に受け入れていた姿勢を転換し、新基準に当てはまらない場合は争う構えを示す。厚労省の担当者は「新基準では、がん以外の主な病気の被爆条件がより明確になった。裁判所も判断しやすいはずだ」と強気だ。

 国の対決姿勢に、被爆者たちは「新基準でも行政と司法の溝は埋まっていない」と反発。原告勝訴の判決が出るたびに制度の抜本改正を国に申し入れ、記者会見で現行制度の「機能不全」を訴えるなど、対立は先鋭化している。

 一連の訴訟を「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」とくくり、約100人の全国原告団をまとめる山本英典団長(81)=東京都杉並区=は「国側の言動は、いかに被爆者を切り捨てるかしか考えていないように映る。被爆者救済の精神はどこにいったのか」と不信感を募らせている。(藤村潤平)

原爆症認定の新基準
 心筋梗塞、甲状腺機能低下症、慢性肝炎・肝硬変について、爆心地から約2キロ以内で被爆▽原爆投下から翌日までに約1キロ以内に入市―とする一方、要件から「放射線起因性(原爆放射線と病気との関連性)が認められる」との文言を削除し、積極認定する。がん、白血病、副甲状腺機能亢進(こうしん)症は、爆心地から約3・5キロ以内で被爆▽原爆投下から約100時間以内に約2キロ以内に入市―などの旧基準を踏襲し、原則認定する。

<原爆症認定訴訟で新基準になって原告が勝訴した事例>

                       

原告 被爆地 申請病名 被爆状況
3月20日 大阪地裁 男性(69) 長崎 狭心症など 3.4キロで被爆。翌日1.5キロに入市
男性(82)※ 長崎 肝臓がん原爆投下6日後、爆心地付近に入市
男性(75) 長崎 胃がんなど4.0キロで被爆。翌日2.0キロに入市
女性(85) 長崎 骨髄異形成症候群1.1キロで被爆
3月28日 熊本地裁 女性(87) 長崎甲状腺機能低下症2.4キロで被爆。当日0.5キロに入市
女性(76)※ 長崎 高血圧性脳出血後遺症など2.5キロで被爆
女性(82)※ 長崎 慢性腎不全3.8キロで被爆
女性(84) 長崎 骨髄異形成症候群など2.4キロで被爆
女性(69)※ 長崎 甲状腺機能低下症など2.0キロで被爆
5月9日 大阪地裁 男性(89歳で2011年死去) 広島心筋梗塞など原爆投下4日後、1.5キロに入市
男性(88歳で2011年死去) 長崎 慢性腎不全3.2キロで被爆


【注】※の原告は国が控訴。5月9日判決の控訴期限は同23日。年齢は判決当時

(2014年5月14日朝刊掲載)

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