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社説・コラム

憲法 解釈変更を問う 本紙連載に登場の識者16人発言要旨 集団的自衛権容認を提起

 安倍晋三首相は15日、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更の検討を本格化させる考えを表明した。行使容認の必要性や問題点は―。中国新聞のインタビュー連載「憲法 解釈変更を問う」に、これまで登場した各界の識者全16人の要旨を、あらためて紹介する。

手続きに難

 元内閣法制局長官 阪田雅裕氏 行使を容認することは、戦力を保持しない、交戦権は認めないと定めている憲法9条2項の削除に等しい。憲法の平和主義が失われる。立憲主義に立ってみても、憲法解釈を恣意(しい)的に各内閣がいじることは好ましくないのは明らかだ。

 早稲田大(掲載時は東京大)教授 長谷部恭男氏 憲法は国家権力の暴走を制約するためにあり、これを「立憲主義」と呼ぶ。時の政権が、自分たちの判断で憲法解釈を変えるのは立憲主義に反する。憲法を改正して行使を容認することはあり得るとしても、それには国民各層の十分な議論が欠かせない。

 自民党元幹事長 古賀誠氏 占領下に施行された今の憲法は「押し付け憲法」といわれるが、この憲法で今の日本の平和や繁栄がある。集団的自衛権について、歴代政権は「保有しているが行使は許されない」との憲法解釈を基に答弁を積み上げてきた。認めるなら、憲法改正が政治の王道だ。

国益損なう

 神戸女学院大名誉教授 内田樹(たつる)氏 集団的自衛権は「人のけんかを買う権利」。過去に行使したのは軍事大国ばかりだ。69年間、戦争をしてこなかった日本が使うべきものではない。行使を容認すれば、東アジアの緊張を高め、善隣外交はますます遠のく。日本側のメリットが見えない。

 元外務省国際情報局長 孫崎享氏 行使容認は日本の安全保障にとってかえってマイナス。米国の軍事戦略に加担させられ、極論を言えば、自衛隊は必要ならば地球の裏側にも出て行く。第三国によるテロ行動を呼び込む恐れがある。憲法9条の価値をいま一度、理解し直すべきだ。

 元外務省主任分析官の作家 佐藤優氏 行使容認の是非を判断するのであれば、国際情勢を正確に把握した上で、日本の安全保障に与えるメリット、デメリットを国会で十分議論する必要がある。与野党の考えが出尽くした後、集団的自衛権を争点に解散総選挙をするのが絶対条件だ。

議論不十分

 公明党幹事長代行 斉藤鉄夫氏 行使容認問題は極めて慎重に議論すべきだ。国のありよう、われわれの生き方を根本から変える大転換であるのに、国民的議論が深まっているとは思えない。アジア、そして世界の中で憲法解釈変更がどう捉えられるのかも、よく考えないといけない。

 漫画「はだしのゲン」の作者・中沢啓治さんのドキュメント映画を制作した被爆3世 渡部久仁子氏 米国による原爆投下もあった戦争を経験した国で、なぜ行使容認論が出るのか全く理解できない。一部の政治家たちが意見を交わしているだけで主権者の国民は置き去りにされている。

歴史尊重を

 弁護士(広島弁護士会) 寺西環江(たまえ)氏 集団的自衛権を行使すれば、どんな形であれ、日本国民が人を殺したり殺されたりする結果を招く。歴代政権が憲法9条を尊重し、行使を認めない解釈を守ってきた事実は重い。解釈変更で行使を容認するのはルール無視で、違憲だ。

 庄原市議会で、憲法解釈変更に反対する意見書の可決を主導した市議 松浦昇氏 行使容認は憲法9条を壊し、国の形を変える。憲法は戦後日本の平和を築いてきた。守って生かさないといけない。その憲法を脇に置き、自分の意に沿うように解釈を変更するなどもっての外だ。

米と一体化

 元金融・郵政改革担当相 亀井静香氏 行使を認めると、米国から「一緒に戦え」と言われる危険性がある。日本は平和国家を目指し、国際紛争の解決の手段として戦争をしないという理想を掲げてやってきた。憲法の範囲でできることをやればいい。無理して変える必要はない。

 広島修道大教授 大島寛氏 米国では共和党、民主党の政権を問わず、集団的自衛権を行使しない日本の政策を「強力な安全保障体制の構築を阻害するもの」とみてきた。米国が今求めているのは、米軍とともに戦う自衛隊。行使を容認すれば、自衛隊と米軍の一体化が進む懸念がある。

安保上必要

 外相 岸田文雄氏 国民の生命と財産、国の自由と独立を守るのは、政治家として、政権を担う者として、どうしても果たさなければならない責任だ。時代の変化に対応できる、安全保障の備えと議論をしないといけない。これを「右傾化」と捉えるような指摘は全く当たらない。

 安保法制懇座長代理 北岡伸一氏 悪化する日本の安全保障環境を考えると、個別的自衛権だけで大丈夫とはいえない状況だ。まっとうな安保体制をつくる法整備が必要と思う。憲法9条が許容する「必要最小限度の自衛権の行使」に集団的自衛権が含まれないとの解釈は間違っている。

 元海上自衛隊ペルシャ湾掃海派遣部隊指揮官 落合畯(たおさ)氏 日本が攻撃されたら助けてほしい。しかし、あなたたちの国が攻められても、日本は助けることはできませんという理屈は、とても世界で通じない。現在の国際社会は、特に安全保障分野では多くの国々が互いに補完し合っている。「平和憲法があるからと言われても困る」となる。

現状は行使

 静岡県立大特任教授 小川和久氏 同盟関係を結ぶのは、有事に助け合うことが前提条件。集団的自衛権の行使は当然の責任、義務だ。行使というと、一緒にドンパチすることしか想像しないのは、あまりに幼稚で情緒的。日本の平和主義に即した集団的自衛権の在り方を探るべきだ。

<第9条>
① 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

(2014年5月16日朝刊掲載)

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