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被爆者や市民団体反発 中国地方 「情勢的に当然」の声も 首相、集団的自衛権容認を提起

 安倍晋三首相が集団的自衛権の行使容認に向け、憲法の解釈変更の検討を表明した15日、広島の被爆者や中国地方の市民団体は「他国の戦争に巻き込まれる」「平和憲法の理念を覆す」として反発の声を上げた。一方、「国際情勢を考えると当然」との声も。国民的な議論が足りないとの指摘は賛否双方からあった。

 広島市中区の原爆ドーム前では、市民団体「秘密法廃止!広島ネットワーク」のメンバーたちが座り込んだ。「海外で戦争をする国にするな」。抗議文が読み上げられると、集まった約70人から拍手が湧いた。

 平和記念公園(中区)を散歩中の近くの無職元永政彦さん(79)は「世界に類のない平和憲法は守らないといけない。もう少し時間をかけて国民を巻き込んだ議論をすべきだ」。半面、本通り商店街(同)を歩いていた佐伯区の医師土井盛博さん(43)は「一国では平和を守れない。集団的自衛権を認めるのは当然」とした。

 戦争の惨禍を身をもって知る被爆者。広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧智之事務局長(72)は「再び戦前の世相を迎えるのではないか」。もう一つの県被団協(金子一士理事長)の大越和郎事務局長(74)も「戦争の犠牲の上に9条が生まれた。必要最小限度の武力行使というが、歯止めが利かなくなる」と危ぶむ。

 安倍首相は自衛隊の多国籍軍への参加は否定したが、国連平和維持活動(PKO)に積極参加する姿勢を強調。「基地の街」でも波紋が広がった。

 呉海上自衛隊協力会事務局長の山下完治さん(61)=呉市=は「国際貢献が求められる時代。日本だけ安全な所にいて、よそは知らないでは通らない」と行使容認を認めつつも、隊員が危険にさらされるケースを心配する。米海兵隊岩国基地を抱える岩国市の住民グループ「住民投票の成果を活(い)かす岩国市民の会」の大川清代表(56)は「基地は機能強化され、米国の戦争に岩国が巻き込まれるかも」と懸念する。

 「余計に他国の武装化を招くのではないか」と不安そうに話したのは、広島大4年の橋村聡さん(21)=東広島市。「どんな国になってしまうのか。首相には解釈変更の重みを分かってほしい」

 広島大大学院の秀道広教授(56)は「行使を容認することで、戦争を起こさない抑止力は高まる」と評価。その上で「国民はまだ納得していない。説明責任を果たすべきだ」と指摘した。

(2014年5月16日朝刊掲載)

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