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社説・コラム

社説 安保法制懇報告書 解釈改憲は許されない

 戦後の日本が掲げてきた「平和国家」の理念はどうなるのか。安倍晋三首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)がきのう政府に提出した報告書を見ると、強い危惧を抱かざるを得ない。

 焦点である集団的自衛権の行使については、憲法9条で禁じられていないとした。

 もともと安保法制懇のメンバーは行使容認に前向きな学識者が中心で、はなから結論は見えていたといえよう。

 安倍首相は報告書の提出を受け、与党の自民、公明両党に協議を求めた。今秋の臨時国会までに憲法解釈の変更を閣議決定し、集団的自衛権の行使を容認したい考えとみられている。

 しかし日本の国是は「専守防衛」としてきたはずだ。このまま拙速に事を進めては、将来に大きな禍根を残しかねない。

二つの見解示す

 まず報告書の中で注目しなければならないのは、集団的自衛権の行使に対する憲法解釈について二つの見解を示していることである。

 一つは、自衛のための武力行使は禁じられておらず、集団的自衛権の行使も広く認められるという解釈だ。さらに国連の集団安全保障措置への参加など、国際法上、合法とされる活動には憲法上の制約はないとする。

 もう一つは、限定的に集団的自衛権の行使が容認されるというものである。歴代の政権が憲法で認められているとしてきた「必要最小限度の自衛権行使」の範囲であれば許される、と解釈する。

 きのう会見した安倍首相は、報告書の後者の見解を前提に与党で協議を進める方針を示した。あくまで限定的な容認であると強調することで、国民の理解が得やすくなると判断したと思われる。

首相に考え近い

 首相は行使容認を検討する理由として、中国の海洋進出を念頭に置いた東シナ海や南シナ海の緊張、北朝鮮のミサイル開発などを挙げた。日本の安全保障をめぐる状況が厳しくなっているのは確かだろう。

 それでも集団的自衛権の行使に道を開くことには慎重でなければなるまい。いずれ安保法制懇の前者の解釈のように、全面的に容認されるという恐れは否定できない。

 というのも、安倍首相と安保法制懇のメンバーは非常に考え方が近いとされているからだ。

 そもそも安保法制懇は、首相が自ら第1次政権時代の2007年に設置した。翌年にまとめた報告書では、集団的自衛権を行使しなければならない事例などとして、米国を狙った弾道ミサイルの迎撃など四つの事例を挙げていた。

 さらに第2次政権で議論を再開してまとめた今回の報告書では、それらに加え、新たに六つの事例を並べている。例えば、中東までのシーレーンの機雷掃海や、米軍を攻撃した国へ向かう船舶の臨時検査などが含まれている。

なし崩しの恐れ

 報告書は集団的自衛権を行使するための前提条件も示している。日本の安全に重大な影響を及ぼす可能性がある場合などの6条件だ。ただ、これらの条件は幅広く解釈できる余地があり、しっかりとした歯止めになるかは心もとない。

 これまでの自衛隊の海外派遣の歴史を忘れてはなるまい。1991年の湾岸戦争後、ペルシャ湾の機雷除去に海上自衛隊が出動したのを契機に、国連平和維持活動(PKO)、アフガニスタンやイラク戦争での後方支援と広がっていった。

 首相は「日本が再び戦争をする国になることは断じてあり得ない」と強調している。だが今後の政権でも、同じことがいえるだろうか。いったんたがを外せば、なし崩しになる恐れは否めない。

 将来の国の在り方を大きく変える安全保障政策については、時間をかけ国民的な議論を深めることが不可欠だ。時の政権が重大な政策転換を、思うように憲法解釈を変更して実現しようとすることは許されない。

(2014年5月16日朝刊掲載)

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