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自衛隊員は理解と懸念 集団的自衛権の容認検討 中国地方 家族は心境複雑

 安倍晋三首相が集団的自衛権の行使容認に向けて憲法解釈変更の基本的方向性を示したのを受け、海外に派遣される自衛隊員や家族は一定の理解を示す一方、「戦地での危険や心労は計り知れない」と困惑も隠せない。中国地方の自衛隊関係者に受け止めを聞いた。

 「日本国民はもとより、米国や同盟国が攻撃されていたら守るのは当然だ」。海上自衛隊呉基地(呉市)の50代男性隊員は安倍首相の方針を歓迎した。一方、今後の任務で危険が増す可能性もあり、「不安に思う若い隊員がいるかもしれない」と懸念も拭えない。

 安倍首相が方針表明して一夜明けた16日、自衛隊員の口は一様に重く、基地を足早に出入りした。陸上自衛隊海田市駐屯地(広島県海田町)の男性隊員(19)は「危険が増えるかもしれないが正直、詳しいことはよく分からない。いつも通り仕事に取り組んでいく」。別の男性隊員(40)も「特に不安はない。今まで通り与えられた任務を遂行するだけ」と言葉少な。海自呉基地の20代男性隊員は「私から言えることは何もない。上官から取材には『答えられない』と言うように指示されている」と明かし、口をつぐんだ。

 隊員の家族は複雑な思いを抱く。海自岩国基地(岩国市)の隊員の70代父親は「同盟国が被害に遭っている時は協力が必要。議論を重ね、国民の理解を得てほしい」と行使容認に理解を示した。一方で「もし息子が戦地に行くようなことがあれば残念だが、隊員である限り国の方針に従わなければならない。武力行使は最後の手段にしてほしい」と望んだ。

 夫が自衛官の呉市の30代女性は「これまで災害地や海外への物資輸送が主な任務だったが、今後は公海上で他国から攻撃される怖さもある。家族も心労がたまりそう」と不安を隠せない。呉基地の隊員だった夫が、海賊のはびこるソマリア沖へ日本船護衛に派遣されたことがある妻(43)は「解釈が変更されれば、例えば中国などを刺激してしまうのでは」と懸念。「今度は戦地に送り出すことになる。夫たちの精神的消耗を思うとたまらない。安倍首相がここまで強行するのは、私たちが思う以上に状況が緊迫しているのでしょうか」と漏らす。

 こうした声に対し、広島県世羅町生まれで、陸上自衛隊少年工科学校出身の軍事ジャーナリスト神浦元彰さん(64)は「イラク戦争当時、戦地ではないとされたサマワに派遣された自衛隊員のうち、何人もが帰国後、現地で受けたストレスなどで自ら命を絶った」と指摘。「それが今度は戦地。解釈変更されたとしても先制攻撃は困難なわけで、そのストレスは計り知れない」。多くの自衛隊員を取材した経験から、その心境を思いやった。

(2014年5月17日朝刊掲載)

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