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社説・コラム

『書評』 郷土の本 被爆後の足跡 言い残さねば 男たちのヒロシマ 刊行

 「あの日」から消えない生々しさと惨めな思いが70年近く沈黙を強いた。それが人生の最晩年にきて福島第1原発事故を知る。言い残しておきたい。「男たちのヒロシマ」=写真=が伝えるのは壮絶な被爆体験ではない。被爆後に強く生きてきた足跡だ。フクシマに向けて「くじけないで」との願いがこもる。

 「成人するまで、母を思い出したことはありません。生きるだけで精いっぱいの日々でした」。収められた14人の証言は過酷だ。「膿(うみ)が出て熱を持って(中略)背中一面はケロイド状」。姉は突然出血が止まらなくなり髪が抜け落ち死んだ。父母を亡くした孤児が街にあふれ、先生は、もう学校に来るな、と言った。

 姉弟は結婚前後から人の目を恐れて被爆の話を一切しない。妻は孫の将来を考えて口にしないでほしいという…。それでも強く生きてきた。だから「自分の力で立ち上がって」「挑戦する限り、必ず希望はある」との言葉はか細くも強い。

 被爆者の生の声を海外にも届けようと英訳を併録している。創価学会広島平和委員会編。日本語149ページ・英語139ページ、1404円。第三文明社。(祖川浩也)

(2014年5月18日朝刊掲載)

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