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波紋 特定秘密保護法 医療現場 倫理か法か 広島県医師会の想定から

 特定秘密保護法の施行を控え、医療界が「医の倫理」をめぐって揺れている。特定秘密を扱う人への「適性評価」で、国から患者の個人情報の提供を求められることが予想され、「患者との信頼関係が崩れる」と懸念。特定秘密を理由に診療に必要な情報を入手できない事態も心配する。広島県医師会が想定する二つの事例から考える。(胡子洋)

ケース1 適性評価で国が情報提供要求

患者との信頼崩壊懸念

 広島市内の病院が、適性評価で国から患者の情報提供を求められた。医師は「プライバシーの情報を提供すれば、患者との信頼関係が崩れる」と苦悩する。

 同法は特定秘密を扱う公務員や民間人の適性を判断するため、薬物の乱用▽精神疾患の有無▽飲酒の節度―などを調査できると規定。政府は国会審議で、医療機関に回答義務があるとの見解を示している。

 これに対し、県医師会は「より良い診療のためには患者と医師の信頼関係が不可欠。外部に漏らさないという信頼の下に、率直に事実を打ち明けてくれる」と強調。精神疾患や性同一性障害などの情報を例に「国に伝わるとなると、医師に告げないケースもありうる」と危ぶむ。

ケース2 原発事故で作業員が説明拒否

適切な治療できぬ恐れ

 20XX年、原発事故が発生。被曝(ひばく)して広島市内の病院に搬送された作業員に対し、医師は事故時の状況を詳しく尋ねた。しかし作業員は「原発関連の情報は特定秘密」と説明を拒み、行政機関や企業も「特定秘密保護法に抵触する」として明かさない。

 県医師会は、正確な情報がなければ、本来必要な治療ができないこともあると指摘。「症状だけで判断し一般的な消化器疾患の治療しかできない場合、後々に後遺症や死亡という事態も起こりうる」と話す。

 医療現場への影響をめぐり、全国各地の医師や歯科医師の間で懸念の声が渦巻く。内閣官房の特定秘密保護法施行準備室は「医療機関の不安は認識している。不安や懸念の解消に向けた制度設計を検討しており、丁寧に説明したい」と強調。原発については「特定秘密の対象外。法律にも拡大解釈をしてはならないと定めてある」と話す。

 同法は年内の施行を予定する。「国による医療への不当介入を防ぐなどの法整備がない中での施行は時期尚早だ」と県医師会。新たな法整備を求め、近く日本医師会を通じて政府への働き掛けを強める方針でいる。

適性評価
 特定秘密を扱う者が漏えいをする恐れがないかどうかを見定めるため、特定秘密保護法12条に基づいて行政機関の長が実施する。評価のための情報を集めるのは警察庁や公安調査庁が中心になる見通しで、犯歴などの経歴や借金など経済状況を調べる権限が与えられる。評価対象者は公務員だけでなく民間事業者に及ぶ。対象者に調査を告知し、同意を得て評価をするとしている。

(2014年5月18日朝刊掲載)

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