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社説・コラム

社説 インド政権交代 核政策を見極めるべき

 人口12億人の大国が転機を迎えた。インド総選挙は野党のインド人民党(BJP)が圧勝し、10年ぶりの政権交代が実現した。新首相には、グジャラート州政府で首相を務めるナレンドラ・モディ氏が就任する。

 著しい経済成長とともに膨らんだ巨大市場は各国の垂ぜんの的だが、このところ減速も目立つ。経済再生をどう図るかに、国内外から注目が集まろう。

 だがBJPは前回政権に就いていた1998年に国際社会に背を向け、核実験を強行した歴史を持つ。そうした危うさの方も十分に見極めたい。

 多党化するインドで一つの政党が単独過半数を制するのは30年ぶりだ。右派のBJPが地滑り的な勝利をなぜ収めたのか。与党の国民会議派の失政に原因があろう。リーマン危機に手をこまねき、構造的な貧富の差は広がるばかり。相次ぐ汚職も不人気に拍車をかけたようだ。

 これに対してモディ氏は救世主のような扱いをされてきた。足元のグジャラート州で成功した経済的な手腕ゆえである。大胆な規制緩和などを通じて外資を次々と呼び込んできた。

 全土で経済改革を進め、外資参入が加速すれば恩恵は世界に及ぶ。そんな期待は各国とも強かろう。ただ利害が複雑に絡み合う国内の現実を考えれば簡単に前に進むだろうか。ましてや人口の3分の2を占める貧困層への対策は困難極まりない。

 仮に経済政策がうまくいかず不満が拡大すれば、かつての核実験のようにナショナリズムを鼓舞し、支持回復に走る恐れはないのか。というのもBJP自体がヒンズー至上主義者を古くから支持基盤とし、排他的な色合いが濃いからである。

 モディ氏本人も自州でイスラム教徒への大量虐殺を黙認したとして、国際社会から厳しい目を向けられてきた。政権に就けば長年敵対してきた隣のイスラム国パキスタンとの関係が悪化する可能性は否定できまい。

 さらには対立が深まる中国に対しても、一段の強硬姿勢に傾くのではとの見方がある。

 気掛かりなのは今回のBJPの選挙公約が「核政策の再検討」を掲げたことだ。

 モディ氏は選挙中、インドが掲げてきた核兵器の先制不使用は守ると弁明した。ならば再検討とは何なのか。核を手放す方向ではなく、抑止力の強化であるのは容易に想像できよう。

 そもそもインドは核拡散防止条約(NPT)に加盟せず、国際社会の目が届かない。現政権においても核弾頭を搭載できる新型の長距離ミサイルを堂々と発射実験した経緯がある。

 これ以上、不透明さを増すとすればゆゆしきことである。

 そんな新政権と、日本はどう向き合うべきか。慎重な姿勢が求められるはずだ。焦点となるのは安倍政権が締結へ積極的な日印の原子力協定である。電力不足の深刻なインドが繰り返し求める原発技術の供与だが、軍事転用につながる危険性はむしろ高まるのではないか。

 親日家という新首相の初の外遊先はわが国となりそうだ。巨大市場参入に目を奪われるあまり、安易に原子力協定を「おみやげ」に差し出すことなど論外である。むしろ対外関係で自制を促し、NPT加盟を強く働きかけることこそ被爆国が最初に取るべきスタンスだろう。

(2014年5月19日朝刊掲載)

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