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社説・コラム

『潮流』 「バナナの輪」とW杯

■備後本社編集部長・古川竜彦

 ちょっと厳しすぎるかな、と感じた人が多かったのではないか。

 J1の浦和レッズに対する史上初の「無観客試合」の処分のことである。一部の浦和サポーターが「JAPANESE ONLY」(日本人以外お断り)という横断幕をスタジアムに掲げた行為に対し、Jリーグが決定を下した。

 けれど、世界のサッカー界に広がる「バナナの輪」を知って、当方の考えも変わった。

 きっかけは、スペイン1部リーグ・バルセロナのブラジル代表アウベス選手の行動だった。先月のアウェー戦で、コーナーキックを蹴ろうとした時、観客から足元にバナナが投げ込まれた。アウベス選手は拾って皮をむいてその場でパクリと食べ、平然とプレーを再開した。バナナを投げるのは、有色人種を「猿」に例える悪質な差別という。

 アウベス選手はしかし、差別を「のみ込む」という機転あふれる行為で切り返した。共感した世界のスター選手たちがバナナを食べるパフォーマンスを、ネットなどを通じて次々と公開。ブラジル代表のエース、ネイマール選手をはじめ、日本代表の長友佑都選手や元監督のジーコさんも「輪」に加わった。

 試合後、アウベス選手は「11年間スペインでプレーしているが、何も変わらない。ばかげた行為には笑って返すしかない」とコメントした。各国リーグの現場で、目に見える形だけでなく、やじや言葉による人種差別的な行為が頻発している深刻さを浮き彫りにした格好だ。

 6月、ワールドカップ(W杯)が開催されるブラジルは「人種のるつぼ」といわれる。日本などからも移民を受け入れ、共存する社会を築いてきた。日本代表を応援するのはもちろんだが、今回は「バナナ」をキーワードに世界最大級のスポーツイベントを注視したい。

(2014年5月20日朝刊掲載)

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