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社説・コラム

憲法 解釈変更を問う 元防衛相・北沢俊美さん 

功名心透ける首相発言

恣意的判断 自衛隊翻弄

 安倍晋三首相は15日の記者会見で、集団的自衛権の行使が必要な具体的な事例として邦人輸送中の米艦船の防護を挙げた。わざわざ事例を探し出してきたとしか思えない。それなら個別的自衛権に基づく法整備でカバーできるからだ。

 一連の言動からは、歴史に名を残したいという功名心しか感じない。中身よりも、行使容認をとにかく自分でやりたいとの考えが透けて見える。

 中国の海洋進出などの安全保障環境の厳しさも強調した。しかし、歴史認識で不用意な発言をするなどして、相手に政策的に付け入る隙を与えたり、先鋭的な行動をあおったりしたのは首相本人だ。自分で火をつけておいて「大変だ、大変だ」と騒いでいる。

 長野県議から1992年の参院選で初当選し、4期目。同県が地盤の羽田孜元首相とともに93年に自民党を離れ民主党に。現在、党副代表を務める。民主党政権が発足した2009年9月から約2年間、防衛相を務めた。

 防衛相時代、米国防長官と8回会談したが、一度も集団的自衛権の行使を求められたことはない。日本が踏み込めば、周辺諸国が不安がると分かっていたからだと思う。

 自衛隊は国を守るため厳しい規律の中で訓練し、命令に服従する組織としてつくり上げられている。彼らは命令に従わなければならない。その根本が時の内閣の恣意(しい)的な判断で変わるようなら、危険を背負って行動できない。自衛隊の士気は極端に落ちる。翻弄(ほんろう)されることこそが問題だ。

 集団的自衛権の行使を認めない憲法解釈は、戦後の長い年月の中で、国会という立法府の最高機関で積み上げられた。ある種の国是のようなものだ。一内閣が「ちょっとだから、いいでしょ」と変える事態はあってはならない。

 1度容認すれば際限なくなると考えるべきだ。日本には無謀な戦争を始めて途中でやめられなくなり、300万人以上の国民が犠牲になった歴史がある。私も小学生の時に敗戦を迎え、戦争の悲惨さはある程度身に染みている。この教訓は、国を治める上で極めて重要だ。

 党安全保障総合調査会の会長を務め、集団的自衛権行使で賛否が割れる党内の意見を集約する立場にある。2月末には「行使一般を容認する憲法解釈変更は許されない」との見解をまとめたが、行使の是非に踏み込まず、最終的な意見集約は先送りしたままだ。

 解釈変更による行使容認はまかりならんという原則論は党内で合意できた。14日から調査会を再開しており、今後は週1回のペースで精力的に議論を進める。20程度の個別事案を検討し、来月22日の国会会期末や与党協議の状況を見据えながら最終的な意見をまとめたい。個人的には、個別的自衛権で大体のことは対応できると考えている。

 集団的自衛権の行使が必要だとしても、国民の声を聞いて、憲法改正の王道を歩むべきだ。解散総選挙で国民の信を問う手段もある。閣議決定で進めようとする安倍政権は、国民をないがしろにしている。国民不在の議論をしてはならない。(聞き手は藤村潤平)

(2014年5月21日朝刊掲載)

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