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社説・コラム

社説 自衛権の自公協議 民意置き去りにするな

 自民、公明両党はきのう安全保障に関する協議を始めた。最大の焦点は、憲法解釈で認めてこなかった集団的自衛権の行使を容認するか否かである。

 まずは他国からの武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」への対応から話し合うことで合意した。

 安倍晋三首相はすでに、憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使容認を目指す考えを表明している。自公協議は、その前のめりの姿勢への批判をかわし、丁寧な議論を見せようと設定された経緯がある。

 自民党は、できるだけ早く公明党の了承を得て、今夏にでも行使を容認する憲法解釈の見直しを閣議決定したいという。秋の臨時国会に関連法改正案を提出し、年内に自衛隊と米軍の役割分担を決める日米防衛協力指針(ガイドライン)を改定する―。まずスケジュールありき、が見て取れよう。

 グレーゾーン事態は公明党も議論を進めるべき課題だとしている。取り組みやすい議題から入ったのだろう。

 公明党は一方で、憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認については、慎重姿勢を崩していない。認めれば平和の党としての存在意義が失われかねないからだ。ただ、連立の解消は考えていまい。来春の統一地方選が近づけば、自民党も世論が割れるテーマは議論しにくくなるとみて、先延ばしを狙っているとの見方もある。

 協議では、焦らずに問題点を洗い出してほしい。

 グレーゾーン事態は、東シナ海や南シナ海などで海洋進出を強める中国との尖閣問題を念頭に置いているのだろう。典型とされるのは、漁民を装った武装集団が日本の離島に上陸するという事例である。

 だが、両党の主張には隔たりがある。自民党には自衛隊がこれまでよりも迅速に対処できる関連法の整備を求める声がある。一方、公明党からは、海上保安庁や警察の対応が先だとし、自衛隊が前面に出れば、かえって衝突の危険が増すとの指摘が出ている。

 尖閣は領土内であり、警察や海保によって対応できないとしても、個別的自衛権の範囲で収まる話ではないか。不安がある隙間は、まずは現行の枠組みで検討すればいい。集団的自衛権の行使容認を議論する道筋で持ち出すのは、無理があろう。

 ましてや、今後議論となる国連平和維持活動(PKO)や集団安全保障の分野は、海外で自衛隊の活動を広げる話である。海外での武力行使を禁じる憲法9条に照らし、武器使用の基準は厳格に定めている。

 自公とも、国民に慎重論が根強いことは忘れてはならない。安倍首相の会見後、共同通信の世論調査では、憲法解釈変更による容認への反対が半数を超えている。

 民意を置き去りにしたまま、自公協議だけですべてを決めるとでもいうような進め方は許されまい。憲法解釈の変更が絡んでいる。国民のためというのなら、いっそのこと協議の場を公開してはどうだろうか。

 28日には衆院で安倍首相が出席する集中審議がある。集団的自衛権を議題に本格的な国会論戦が始まる。参院でも予定される。与野党ともに問題点をはっきりさせてほしい。

(2014年5月21日朝刊掲載)

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