×

社説・コラム

天風録 「炭火の後始末」

 炭火は消えにくい。表面は黒くても、まだ火の芯が残る。先日、兵庫県赤穂市では山火事を招いた。バーベキューを終えて裏山に捨てた40代会社員は「消えている」と疑わなかったらしい。とんだ後始末は往事を知らない年齢ゆえか▲炭は日本の生活や文化に溶け込んできた。火鉢の源流は弥生時代にまでさかのぼる。いろり、こたつで重宝された。もちろん炊事や風呂たき、さらに防湿剤、虫よけにも。かつては「木炭国」と呼ばれたと、歴史学者の故樋口清之さんは著書に記す▲薪とともに、家庭で使う燃料の主役から降りて久しい。便利な電気やガスに代わった。ただ、あの原発事故を経験した今、エネルギー消費を考え直す流れも出ていよう。身近な木から身の丈に合う量を作って使う。炭の考え方をヒントにできないか▲きのう福井地裁は定期検査中の大飯原発の運転を再開しないよう関西電力に命じた。大地震に対する住民の不安がくすぶり続ける限り、発電の主役から降りなさい。判決の趣旨は明快だ▲列島の原発は今、どこも火を落としたものの、全ての放射性廃棄物が片付いた状況にはない。気が遠くなるほど長く続く後始末を間違えるわけにはいかない。

(2014年5月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ