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社説・コラム

社説 厚木の飛行差し止め 司法の警鐘どう生かす

 毎年5月ごろ、神奈川県の厚木基地周辺の騒音はひときわ激しくなる。米海軍の艦載機部隊が乗り込む空母の出航に合わせ、離着陸を繰り返すからだ。

 まさにその時期に重い判決が出た。住民約7千人が起こした第4次厚木基地騒音訴訟である。横浜地裁は総額70億円と過去最高額の賠償に加え、基地を共同使用する自衛隊機の夜間の飛行差し止めを国に命じた。

 一方で騒音の主な原因の米軍機の差し止め請求は棄却した。原告側に物足りなさは残ろうが、各地の基地騒音訴訟で司法が飛行にストップをかけるのは初めてだ。住民の苦しみを放置する国の責任がかつてなく厳しく問われたのは間違いない。

 厚木基地周辺の騒音が深刻化したのは、米空母が横須賀を母港化した1973年からだ。首都圏の人口密集地にあるというのに、ごう音を響かせる艦載機の訓練は拡大し、事故への不安を住民にもたらしてきた。

 3次にわたる過去の住民訴訟でも裁判所は国に賠償を命じ、対応を急ぐよう求めたものの事態はなかなか改善されない。今回の横浜地裁の判決は業を煮やして踏み込んだ格好になる。

 米軍機の差し止めを認めなかったのは、日米安保条約と地位協定に守られた米軍の訓練には日本の主権は及ばないとする立場を維持したからだろう。司法の限界を示したともいえる。

 しかし、判決の言わんとすることは明らかだ。

 厚木の自衛隊機は哨戒機や救難機などで比較的、騒音は小さい。もともと夜間の飛行は控えている。それでも共同使用する側に矛先を向けることで、いくら騒音を出しても反省の色の見えない米軍に対し、できる限りの警鐘を鳴らしたとみていい。

 全国の基地の騒音問題にも当然、波及していく話である。米海兵隊と自衛隊が共同使用する岩国基地の現状と今後についても考えずにはいられない。

 滑走路の沖合移設を終えた岩国基地には米軍再編の一環として、2017年をめどに、厚木の艦載機部隊をまるごと移転する計画が進む。政府からすれば問題解決の「切り札」であり、移転を急げという声が強まるとも考えられる。

 だからといって被害をたらい回しする発想だけでは根本的な解決につながるまい。岩国の側でも賠償や飛行差し止めを求める住民訴訟が現に起きていることを忘れてはならない。

 厚木でいえば賠償の対象となってきたのは「うるささ指数(W値)」と呼ばれる数値で75以上となるエリアである。岩国基地周辺においても、同レベルの騒音に苦しむ住民は厚木周辺より少ないものの、今なお数多く存在している。その上に艦載機部隊がやってくればどうなるか。厚木の厳しい現状を、ひとごとと思えない人もいよう。

 基地が集中する沖縄の負担軽減に向けて米軍機能の本土分散化も議論されているが、現状のような傍若無人な訓練が続くなら理解を得られるはずはない。まずは米国側に自制を厳しく求める姿勢が日本政府に求められよう。中国山地の住民を不安に陥れる飛行訓練も含まれる。

 日米同盟の強化は基地周辺住民の暮らしをどう変えるのか。安倍政権は、きのうの判決を基地被害とあらためて向き合うきっかけにしてもらいたい。

(2014年5月22日朝刊掲載)

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