×

社説・コラム

憲法 解釈変更を問う 漫画家・弘兼憲史さん

行使容認 国防に不可欠

中国の軍拡 無視できず

 集団的自衛権の行使の必要性を考えさせられたのは、1991年の湾岸戦争だ。国連決議を受けて編成された多国籍軍が、クウェートを解放した。日本も多額の資金を提供して協力したものの、感謝の言葉はなかった。経済大国の日本が、やはり多国籍軍に参加しなければ国際的に評価されないと痛感した。

 日本が集団的自衛権を容認しなかったのは、戦争をしないとうたう憲法9条があったからだ。今は通用しない。北朝鮮や中国の今を見ると、行使を容認しないといけないと思う。

 中国軍の増強や北朝鮮のミサイル開発を背景に、東アジアの安全保障環境は厳しさを増しているとされる。安倍晋三首相は「一国のみでは自国の平和と安全を守れない」と、集団的自衛権の行使容認を目指す理由を説明している。

 今や一国で防衛できる時代ではない。侵略されたら多くの国が協力して大きな軍事力で対抗する集団的安全保障が必要となっている。この枠組みに入るしかない。

 その一つに国連中心主義がある。国連軍に日本が加わるというのは理想だが、作品を書くために国連を取材すると、常任理事国の拒否権により機能しないことが分かった。だから、米国を中心に日本を含む国々が団結して立ち向かうのが現実的ではないか。

 いろいろな国が協力してお互いの安全を守る仕組みなら、軍拡競争に走らなくても済む。

 岩国市で生まれ、高校卒業まで過ごした。自衛隊の国連平和維持活動(PKO)派遣や尖閣諸島(沖縄県)沖での中国漁船衝突事件など日本の外交課題を、漫画「島耕作」シリーズや「加治隆介の議」(90~98年)で取り上げている。

 「加治隆介の議」で主張したかったのは、集団的自衛権を認めよというのが本音。この作品を書いていた頃、中国の軍事力は日本の10年は遅れているといわれていた。だが、中国は想像以上のピッチで増強し、無視できなくなった。

 戦争への反省から日本は憲法で平和主義を掲げ、自衛隊を外国に出さないと説明してきた。しかし、湾岸戦争で痛感したように、これからは自衛隊員に犠牲者が出る危険があることを覚悟した上で、紛争地へ積極的に派遣し、世界平和に身をもって貢献する姿勢を示すことも求められている。

 そのために憲法9条を改正して軍隊を持つことを明記し、併せて決して侵略のための戦争を行わないことを付け加えたい。米国との軍事行動が侵略戦争になる心配があるなら、国会が適切でないと判断したら、手を引けるように法律を整備すればいい。

 日本が再び軍国主義に立ち返ることは、国民自身が許さない。もし9条の改正を提案し、国民が否決するなら、それは国民の判断として仕方ないと思う。

 中国や韓国を嫌う若い人が増えていると感じるが、隣国同士で経済的な結びつきは強い。互いに認め合う気持ちを育まないといけない。(聞き手は坂田茂)

湾岸戦争
 1990年のイラクによるクウェート侵攻を受け、91年1月に始まった。国連安全保障理事会はイラクに対する撤退を求める決議を採択。米国を中心に多国籍軍が結成されたが、日本は憲法9条の制約から自衛隊派遣を見送った。終戦後、海上自衛隊の掃海艇を派遣し、復興支援などに計約130億ドルを出したが、国際社会での評価は低かった。

 湾岸戦争を契機に日本は、人的な国際貢献を求められるようになり、宮沢喜一氏が首相だった92年6月に国連平和維持活動(PKO)協力法が成立。停戦合意や紛争当事者間の合意があれば国連の活動への協力が可能になった。

(2014年5月23日朝刊掲載)

年別アーカイブ