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社説・コラム

社説 大飯原発差し止め 根源的な問い掛け重い

 東京電力福島第1原発の事故がもたらした未曽有の被害を重く受け止めたのだろう。関西電力の大飯原発3、4号機(福井県)の運転差し止めを地元住民たちが求めた訴訟で、福井地裁は定期検査中の2基の再稼働を認めない判決を言い渡した。

 福島の事故後、運転差し止めを命じる判決は初めてである。果たして地震国の日本で原発の運転を続けてもいいのか。そうした根源的な問いを、司法が投げ掛けたといえる。

 焦点となったのは、大飯原発の耐震性をどうみるかということだ。原発の耐震設計で想定した地震の揺れの1・8倍に当たる1260ガルまでは過酷事故は起きないと、被告の関電は主張した。

 これに対し、判決は将来、1260ガルを上回る地震が来ないという保証はないと指摘する。把握されている過去の地震のデータを踏まえれば、可能性は低いのかもしれない。ただゼロと言い切ることが難しいのも間違いあるまい。

 さらに注目されるのは、原発から半径250キロ圏内と広範囲の住民に具体的な危険があると認めたことである。福島の事故時に当時の原子力委員会委員長がまとめた資料を根拠にした。

 判決は、原発の稼働が電力供給の安定性やコスト低減につながるとの関電の言い分も真っ向から否定した。多数の人の生存そのものに関わる権利と、電気料金の問題を同列に論じるべきではないとする。豊かな国土に国民が根を下ろして生活することこそが「国富」とする地裁の主張にはうなずける。

 原発技術に関わる一部の専門家からは、判決は「科学的な根拠が乏しい」との批判が上がっているのも事実だ。各地の原発をめぐる従来の運転差し止め訴訟では、技術的な専門性を理由に裁判所は電力会社などの主張を追認するケースが多かった。

 しかし今回の判決の背景には、司法界が原発に対するスタンスを変えようとしていることもあるようだ。最高裁は一昨年、原発訴訟についての研究会を設け、全国の裁判官が参加した。「安全神話」が引き起こした福島の事故に正面から向き合おうという姿勢が見て取れる。  いまも全国の16の原発などを対象に運転差し止め訴訟が起こされている。今回の判決が影響する可能性もあろう。

 こうした司法界の動きと、原発の再稼働をめぐる現実はあまりに落差が大きいと言わざるを得ない。関電はきのう、福井地裁の判決を不服として、名古屋高裁金沢支部に控訴した。

 とりわけ気になるのは、大飯原発を含め、再稼働を申請した全国の11原発18基の安全性を審査している原子力規制委員会の姿勢である。田中俊一委員長は判決後も大飯原発について従来通りの審査を続ける方針を示している。

 だが司法が発したこれほどの警告には真摯(しんし)に耳を傾けるべきではないか。政府は「世界で最も厳しい安全基準」と胸を張るが、十分とはいえないという指摘は根強い。

 規制委は今夏にも、最初の再稼働候補として、九州電力の川内原発1、2号機(鹿児島県)の審査を終える見通しだ。少なくとも新たな規制基準がいまのままでよいのか再度、確認することが不可欠だろう。

(2014年5月23日朝刊掲載)

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