×

ニュース

波紋 特定秘密保護法 基地監視への影響懸念 岩国の住民ら 情報非公開が拡大の見方も

 米軍再編の関連工事が進み、極東最大級の基地へと突き進む岩国市の米海兵隊岩国基地。市民団体や専門家には、特定秘密保護法が監視活動にどう影響するのかへの懸念に加え、国や市が萎縮し、暮らしの安心安全に関わる情報が公開されなくなるのではとの疑念が広がる。(野田華奈子)

 愛宕山地域開発事業跡地を望む岩国市牛野谷町の広場。跡地では、米軍家族住宅などの造成関連工事が始まった。「どんなものができるのか分からない。市民は将来も安全に暮らせるのか」。米軍住宅建設に反対する住民団体の座り込みで4月11日、元愛媛大教授の本田博利さん(66)は約40人を前に強調した。

 工事は、2017年ごろに予定される米海軍厚木基地(神奈川県)から岩国基地への空母艦載機部隊の移転に伴う。愛宕山の住民訴訟を支援する本田さんは昨年4月、基本設計を国に情報公開請求。開示部分をめぐって審査請求を繰り返し、1年たってようやく公開された。「要求しなければ出さないのが行政。特定秘密保護法の施行で裁量的秘密主義が加速するのでは」との見方を強める。

 防衛省の出先機関、中国四国防衛局は特定秘密の指定要件に照らして「これまで開示と判断してきた情報が特定秘密となることは通常想定されない」と説明する。安倍政権が憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認に転じることになれば基地のありようはさらに変貌し、秘密の対象も拡大する可能性がある。

 基地の動きを監視する市民団体のよりどころの一つは、目視による航空機の飛行状況など日々の情報収集だ。法施行で活動の根幹が揺らぐ不安も拭えない。

 基地監視団体「リムピース」の共同代表を務める田村順玄市議(68)は数年前、公開された基地内で空中給油機を撮影した。問題視したのは機体の一部に付いていた放射能標識。10年に市議会で指摘し、団体のホームページにも掲載した。

 後日、標識はトリチウムの存在を示し、夜間に給油口の輪郭を浮かび上がらせる目的で使用されていることが判明。「外部被曝(ひばく)の危険はない」とする国への照会結果を市から聞いた。「合法的に撮影や告発をしても、法のどの部分に触れるか分からない。活動が狭められてしまう」と田村市議は案じる。

 山口、広島両県の住民でつくる「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク」の久米慶典顧問(58)は「米軍や自衛隊に違法行為の疑いなどがあっても、国や市が口を閉ざしてしまえば確認できない」と心配する。市は「国に言うべきことは言う姿勢に変わりはない」と強調する。市民の安心安全を守るために必要な情報は何か。その価値観が行政と市民で乖離(かいり)することがあってはならない。

(2014年5月24日朝刊掲載)

年別アーカイブ