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社説・コラム

広島女学院大客員教授 スティーブン・リーパー氏に聞く 禁止条約 成立急げ NPT再検討会議の展望

 広島平和文化センターの前理事長で、広島女学院大客員教授のスティーブン・リーパー氏(66)が、5月上旬まで米ニューヨークで開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第3回準備委員会を傍聴した。準備委の受け止めと、核軍縮の行方を左右する来年の再検討会議の展望を聞いた。(田中美千子)

 準備委で、核兵器を法的に禁じる必要性を訴える国の多さに驚いた。新アジェンダ連合(NAC)、非同盟諸国(NAM)など、核問題に大きな影響力を持つ国家群も次々に非合法化を支持した。

 NPTは1970年の発効から44年になるが、核保有国は核軍縮の義務を一向に果たそうとしない。これ以上待てない、との声はかつてなく強まっている。非合法化の道筋はさまざまだが、まずは非核兵器保有国だけでも核兵器禁止条約をつくり、「核兵器の存在は違法だ」と宣言するべきだ。保有国への圧力になる。来年の再検討会議に前後して、議論は具体化していくだろう。

 米国の水爆実験の被害に遭ったマーシャル諸島の力強い演説も印象的だった。NPT体制の内外で核を持つ9カ国を相手に、国際法上の核軍縮義務違反を確認する訴訟を、国際司法裁判所(ICJ)に起こしたばかり。小国ながら、経済的に依存する米国にまで法的な圧力をかけて、核軍縮を迫ろうとしている。

 日本政府はこれらの動きを後押ししてほしい。ヒロシマ、ナガサキ、フクシマを経験した国だし、何より、マーシャル諸島と同じように水爆実験で、静岡県のマグロ漁船、第五福竜丸が被曝(ひばく)したのだから、影響力は大きい。

 来年の再検討会議は、討議の中身以前に、まず中東の非大量破壊兵器地帯化に向けた国際会議が、事前に開かれるかどうかが大きなポイントになる。2010年の前回の再検討会議で12年の開催を決めたが実現していない。今回の準備委でも、事実上の核兵器保有国であるイスラエルと対立するアラブ諸国が不満をあらわにしていた。

 国際会議が開かれなければ、NPT再検討会議も失敗に終わる可能性がある。そうなればNPT体制は失墜するだろう。半面、NPTに見切りをつけ、非合法化の動きが一気に進む可能性もある。来年に向けて目が離せない。(談)

(2014年5月26日朝刊掲載)

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