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社説・コラム

天風録 「戦争を撮る」

 手記「ちょっとピンぼけ」を訳した川添浩史さんが亡き友の思い出を記す。死の灰を浴びた第五福竜丸を、焼津港で見つめていたと。世界的な報道カメラマンとなったその男に「ぜひ広島にも」と勧めたが、戦場へ赴き帰らなかった▲スペイン内戦、日中戦争、第2次世界大戦の惨状を捉えたロバート・キャパである。ベトナムで地雷を踏んで死亡したのは60年前の5月25日。その直前に訪れた日本では銀座の靴磨きや浅草のお年寄りにも目を向けた▲「写真の天国」と当時の印象を評している。本当は、戦場よりも人間の姿を撮りたかったに違いない。「息子は兵隊ではなく平和の男でしたから」。訃報に接した母親はそう言い、米陸軍墓地への埋葬を断ったという▲落命の危険を承知で前線に迫るジャーナリストがいる。一方で「銃弾の飛び交わない戦場もある」と、島根県津和野町出身の桑原史成さんが本紙「生きて」に語る。専ら、銃後の負傷兵や孤児の姿に戦争の本質をみた▲アフリカで中東で、きょうも紛争が続く。ウクライナにも戦火は広がる。子どもたちはおびえ、肉親の死に大勢が泣き崩れる。日本人が再び被写体になる日も、そう遠くないのだろうか。

(2014年5月28日朝刊掲載)

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