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社説・コラム

広島大平和科研・西田センター長に聞く 充実布陣で発信力向上

 広島大は4月、平和科学研究センター(平和科研、広島市中区)の専任教員を、非常勤の特任教授2人を含め5人とした。1975年の設立以来最も充実した布陣という。センター長に1日就任した西田恒夫特任教授(67)に、国連大使など外務省での経験をどう生かし、発信力向上を目指すのか聞いた。(宮崎智三)

 ―あらためて抱負を聞かせてください。
 伝統と実績のある平和科研を大学として本気で元気づけようとしてくれている。心強く、ありがたい。それだけ責任も大きい。

 来年は被爆70年。何が期待されているか見極め、広島大ならではのものを出していきたい。時間はあまりない。内部で活発に議論して具体的なプログラム作りを駆け足で進めたい。

  ―人員が充実しました。
 「七人の侍」ではないが、5人がそれぞれの得意分野を生かし、チーム力が発揮できればよい。

 平和学自体が今、幅広い分野にまたがっている。アプローチも多様だ。ただ、間口を広げすぎると何をしたいか分からなくなる。何を優先して、どんなメッセージを出すか、整理するのが私の仕事だ。

 ―40年以上勤務された外務省と被爆地広島との間には、核兵器をめぐる考え方で隔たりもあります。
 広島と政府、それぞれのアプローチの違いを過度に強調しても生産的ではない。平和で安定し、究極的には核のない世界をつくる。その目標は同じだ。

 ―国内外の核状況をどう見ていますか。
 冷戦時より核兵器の数は大幅に減ったが、核兵器を持ったり持とうとしたりする国が増え、状況は悪化した。テロや暴力、不正義も横行している。広島の意見が、世界の多数派になる日がすぐ来るとは思えない。

 日本の周りは不安定で安全保障面の環境は極めて危険だ。日米安保条約、つまり米国の「核の傘」から抜け出す悪影響は計り知れない。今は出るべきでない。

 ―確かに核なき世界の実現は困難です。それだけにどうすれば可能か示してほしいとの期待があります。
 道筋を示すのがわれわれの責任だ。体験に基づく広島のメッセージを受け止め現実の政策にして、より早くゴールに到達でき、より多くの人が参加した枠組みができるように示す。それを広島にフィードバックして対話を重ねればいいと思う。

多彩な専門分野 存在感どう増す

 西田センター長のほか3人が1日付で、平和科研の専任教員となった。特任教授の木曽功氏(62)は、元国連教育科学文化機関(ユネスコ)政府代表部大使。尾道市生まれで、96~98年に広島県教育長、10年8月から13年11月まではユネスコ大使を務めた。元文部科学省職員で、今年4月、内閣官房参与に就任した。

 准教授の友次晋介氏(42)は、核セキュリティーなど国際関係論が専門。助教になった小倉亜紗美氏(32)は、環境平和学を志向している。以前から在籍していた川野徳幸教授(47)を含め、30、40代が並ぶ。

 専門分野は多彩だ。ただ直接原爆を扱うのは、被爆者をはじめ、核実験や原発事故の被曝(ひばく)者の調査研究で知られる川野氏だけ。また専任教員5人は、計12人の広島市立大広島平和研究所の半分以下。今後、平和科研として、薄れていた存在感をどう増して、どんなメッセージを発信するか期待される。

(2014年4月15日朝刊掲載)

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