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社説・コラム

社説 集団的自衛権の国会審議 危うさ いっそう鮮明に

 15日の記者会見に比べ、踏み込みすぎの感が否めない。集団的自衛権の行使容認をめぐる安倍晋三首相の国会での答弁だ。「米艦船以外は守らない、と言ったことはない」と述べたことなどに見て取れよう。世論との隔たりをかえって鮮明にしてしまったのではないか。

 共同通信社が17、18の両日に実施した全国電話世論調査では、行使容認反対が48・1%にのぼり、賛成の39・0%を上回っている。積み重ねてきた憲法解釈を一内閣の判断で覆すことに違和感は根強いようだ。

 首相はおとといの衆院予算委員会で、憲法解釈で禁じている「他国の武力行使との一体化」の制限緩和を検討していく方針を表明した。「判断基準をより精緻にし、何が一体化する行為なのかを明確にする」という。

 これはかつて政府が、イラク戦争などの際に定めた自衛隊の支援活動を認める地域、すなわち非戦闘地域の見直しを意味すると受け取れよう。

 首相は「武力行使を目的に戦闘行為に参加することはしない」とも明言した。いわゆる海外派兵はしないという。当然のことだろう。むしろ世論が危惧するのは、戦闘行為に巻き込まれる事態ではないのか。その疑問に答えたとはいえまい。

 また、近隣有事で邦人を輸送する米艦防護について、邦人が乗っていない場合も防護対象にするという。記者会見では「米艦」と説明したが、答弁では「米艦以外はだめとは言っていない」とつじつま合わせをした。現実の個々のケースごとに判断すべきだと言うが、その基準はどこにあるのだろう。

 輸入原油の多くが通過するペルシャ湾のホルムズ海峡も例に挙げ、「各国が協力して機雷掃海に当たっている時、日本が参加しないでいいのか」と首相は問うた。だが、「しないでいいのか」式の論法では説得力を欠き、丁寧な説明とはいえまい。

 首相は衆院で過去の政府答弁書にも異を唱えた。異例のことだ。集団的自衛権行使が認められなくても不利益は生じない―という1981年の答弁書について「紛争国から逃れる邦人を輸送する米艦船を自衛隊が守れなくていいのか。これは明らかに不利益だ」と述べた。

 歴代政権はあくまで憲法9条の縛りを前提に、自衛隊の国連平和維持活動(PKO)などを憲法解釈によって可能にしてきた。その積み重ねが安保法制懇報告や閣議決定だけで覆るとすれば、立憲主義の危機と言わねばなるまい。

 首相はきのう参院外交防衛委員会に臨み、集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈変更について、年末の日米防衛協力指針(ガイドライン)改定までに閣議決定して反映させたいとの意向を表明した。スケジュールありき、が透けて見える。

 しかし、与党公明党との協議は、グレーゾーン事態をはじめ集団的自衛権の議論の入り口でとどまっている。公明としては、日本の安全保障環境に理解は示すことはできても、憲法解釈変更で事を進めたくない、という意向が強いのではないか。

 国民の命と平和な暮らしを守る手段が、なぜ集団的自衛権でなければならないのか、国民の多くも納得できないはずだ。まずは国会審議や与党協議で議論を尽くしてもらいたい。

(2014年5月30日朝刊掲載)

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