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初の8・6迎える民主政権 核軍縮へ道筋示せず

■記者 岡田浩平、荒木紀貴

 広島と長崎は、昨年9月の政権交代後初めての原爆の日を迎える。鳩山由紀夫前首相は核軍縮に不退転の決意を表明し、被爆地の期待も高まったが、8カ月余りで退陣。菅直人政権に引き継がれた被爆者援護も、十分な成果は出ていない。世界的に核軍縮の機運が高まる中で開かれる広島市の平和記念式典を前に、政権交代後の核軍縮、被爆者対策を振り返る。

 政権交代直後、鳩山氏は、国連で核兵器廃絶へ世界の先頭に立つと宣言した。けん引役となる外相には、東北アジアの非核化構想を持論とする岡田克也氏を指名した。「核の傘」の下、米国追従と言われた外交の転換に期待感が高まった。

 「核兵器なき世界を目指す思いは人一倍強い」と自負する岡田氏。安全保障上の核兵器の役割の低減を各国の外相に主張。来月には、非保有国によるグループ発足も目指す。

「NPT」欠席

 一方で、5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議には、鳩山氏も岡田氏も出席しなかった。核軍縮の具体的行程の設定や核兵器禁止条約についても、日本政府から前向きな発言はなかった。

 「多くの非政府組織(NGO)は核軍縮へ目に見えた進展を求めている。核兵器禁止条約はその一つだ」。国連軍縮部のランディ・ライデル上級政務官は指摘する。

 菅政権は、核兵器を持ちながらNPTに入っていないインドとの原子力協力協定の交渉を開始。被爆者からの批判が相次いだ。

 被爆者援護策でも民主党色ははっきりしない。「認定基準が厳しすぎる」との声が強く、2003年から集団訴訟が続く原爆症認定問題が象徴する。

 昨年8月、自公政権と日本被団協は原告の全員救済で合意。今後は、訴訟でなく厚生労働相との協議で解決する方針も示した。

 鳩山氏は11月に日本被団協の坪井直代表委員に会い、制度見直しに積極姿勢をみせた。12月の臨時国会では、救済のための基金法が成立した。

 長妻昭厚労相は今年1月の原告側との初会議で制度の抜本見直しを急ぐ考えを示した。しかし、省内で積極的に検討した形跡はない。原告側が政務三役に面会を申し込んでも実現はしていない。

認定求め提訴

 4日には、一連の訴訟と別枠で近畿地方の被爆者が国に原爆症認定を求めて提訴。訴訟に頼らざるを得ない現実が続く。「この1年、被爆者援護でまったく方向性が見えなかった」と全国原告団の山本英典団長は嘆く。

 6日の広島市の平和記念式典。今年は、原爆を投下した米国がルース駐日大使を派遣するなど、核軍縮の機運の高まりを反映する。政府高官は「式典の首相あいさつで自民党政権とは違ったメッセージを発信したい」と意気込む。ただ、菅首相は参院選惨敗で党内外からの逆風にさらされる。「今の首相に踏み込んだ発言はできないのでは」。そんな声も首相官邸からは聞こえる。


核軍縮・被爆者援護策をめぐる1年の動き

2009年 8月 6日 麻生太郎首相が広島市の平和記念式典に参列後、原爆症認定集団訴訟
              の終結についての確認書を日本被団協と交わす
         30日 衆院選で民主党が圧勝
       9月16日 民主、社民、国民新3党連立の鳩山由紀夫内閣が発足
         24日 鳩山首相が国連の首脳級会合で核兵器廃絶へ世界の先頭に立つと宣言
      10月26日 鳩山首相が臨時国会で所信表明演説。「核軍縮や核不拡散に大きく貢献
              し、不退転の決意で取り組みを進める」と強調
      11月13日 鳩山首相が、来日したオバマ米大統領と会談。「核兵器のない世界」に向
              けた共同声明を発表
         26日 鳩山首相が、日本被団協の坪井直代表委員や原爆症認定集団訴訟の原
              告たちと面会。原爆症認定制度の見直しに積極姿勢を伝える
      12月 1日 原爆症認定集団訴訟の敗訴原告を救済する基金法が成立
2010年 1月14日 原爆症認定制度の課題解決について話し合う初の定期協議が厚生労働省
              で開催。日本被団協や全国原告団に対し、長妻昭厚労相が制度の抜本見
              直しを急ぐ方針を表明
       4月 8日 鳩山首相が「世界平和アピール七人委員会」のメンバーと面会し、核拡散防
              止条約(NPT)再検討会議の出席見送りを伝える
         12日 核物質の保安体制確立を目指す「核安全保障サミット」がワシントンで開幕
       5月 3日 NPT再検討会議がニューヨークで開幕。「核兵器のない世界」の実現を決意
              する最終文書を採択して28日に閉幕
       6月 2日 鳩山首相が退陣を表明
          8日 菅直人内閣が発足
         28日 日本とインド両政府の原子力協定締結に向けた交渉の第1回会合が外務省
              でスタート
       7月11日 参院選で民主党が大敗

             ※肩書は当時

(2010年8月5日朝刊掲載)

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