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被爆65年式典 核に傘離脱 未来への一歩 

■記者 増田咲子

 原爆投下から65年となる6日、広島市は中区の平和記念公園で原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)を営んだ。国連の潘基文(バンキムン)事務総長、原爆投下国の米国からジョン・ルース駐日大使が初参列。昨年より5千人多い5万5千人(市発表)が犠牲者を悼んだ。秋葉忠利市長は平和宣言で「2020年までの核兵器廃絶のためさらに大きなうねりをつくる」と誓った。

 午前8時に開式。秋葉市長と遺族代表2人が原爆慰霊碑に死没者名簿を納めた。この1年に亡くなったか新たに死亡が確認されたのは5501人。名簿は2冊増えて計97冊になった。併せて長崎被爆者4人を加えた計8人分の1冊も納めた。

 原爆投下時刻の午前8時15分。気温28.8度。遺族代表の自営業石川典宏さん(31)=西区=と、こども代表の可部小6年椎木咲来(しいぎ・さくら)さん(12)=安佐北区=が「平和の鐘」をついた。参列者は起立し、1分間の黙とうをした。

 続く平和宣言。秋葉市長は「こがあな いびせえこたあ、ほかの誰にも あっちゃあいけん」と広島弁で被爆者の思いを代弁した。5月にあった核拡散防止条約(NPT)再検討会議の成果にも触れ、日本政府に「核の傘」からの離脱や非核三原則の法制化などを求めた。

 こども代表の古田台小6年横林和宏君(11)=西区=と袋町小6年高松樹南(みきな)さん(11)=中区=は「平和への誓い」を力強く読み上げた。

 政権交代後、初めての式典。菅直人首相は「核保有国をはじめ各国首脳に核軍縮・不拡散の重要性を訴える」と決意を述べた。

 式典には核保有国で初参列のフランス、英国を含む過去最多の74カ国の代表が集った。潘事務総長は核兵器がなくなるまで燃え続ける公園内の「平和の灯」に触れ「私たち、そして被爆者の方々が生きている間に、炎を消しましょう」と呼び掛けた。

(2010年8月6日夕刊掲載)


平 和 宣 言

「ああ やれんのう、こがあな辛(つら)い目に、なんで遭わにゃあ いけんのかいのう」―――65年前の この日、ようやくにして生き永らえた被爆者、そして非業の最期を迎えられた多くの御霊(みたま)と共に、 改めて「こがあな いびせえこたあ、ほかの誰(だれ)にも あっちゃあいけん」と決意を新たにする 8月6日を迎えました。

ヒロシマは、被爆者と市民の力で、また国の内外からの支援により美しい都市として復興し、 今や「世界のモデル都市」を、そしてオリンピックの招致を目指しています。地獄の苦悩を 乗り越え、平和を愛する諸国民に期待しつつ被爆者が発してきたメッセージは、平和憲法の礎であり、 世界の行く手を照らしています。

今年5月に開かれた核不拡散条約再検討会議の成果がその証拠です。全会一致で採択された最終文書には、核兵器廃絶を求める全(すべ)ての締約国の意向を尊重すること、市民社会の声に耳を傾けること、 大多数の締約国が期限を区切った核兵器廃絶の取組に賛成していること、核兵器禁止条約を含め 新たな法的枠組みの必要なこと等が盛り込まれ、これまでの広島市・長崎市そして、加盟都市が 4000を超えた平和市長会議、さらに「ヒロシマ・ナガサキ議定書」に賛同した国内3分の2にも 上る自治体の主張こそ、未来を拓(ひら)くために必要であることが確認されました。

核兵器のない未来を願う市民社会の声、良心の叫びが国連に届いたのは、今回、国連事務総長としてこの式典に初めて参列して下さっている潘基文閣下のリーダーシップの成せる業ですし、 オバマ大統領率いる米国連邦政府や1200もの都市が加盟する全米市長会議も、大きな影響を 与えました。

また、この式典には、70か国以上の政府代表、さらに国際機関の代表、NGOや市民代表が、被爆者やその家族・遺族そして広島市民の気持ちを汲(く)み、参列されています。核保有国としては、これまで ロシア、中国等が参列されましたが、今回初めて米国大使や英仏の代表が参列されています。

このように、核兵器廃絶の緊急性は世界に浸透し始めており、大多数の世界市民の声が国際社会を 動かす最大の力になりつつあります。

こうした絶好の機会を捉(とら)え、核兵器のない世界を実現するために必要なのは、被爆者の本願を そのまま世界に伝え、被爆者の魂と世界との距離を縮めることです。核兵器廃絶の緊急性に気付かず、人類滅亡が回避されたのは私たちが賢かったからではなく、運が良かっただけだという事実に 目を瞑(つぶ)っている人もまだ多いからです。

今こそ、日本国政府の出番です。「核兵器廃絶に向けて先頭に立」つために、まずは、非核三原則の法制化と「核の傘」からの離脱、そして「黒い雨降雨地域」の拡大、並びに高齢化した世界全(すべ)ての 被爆者に肌理(きめ)細かく優しい援護策を実現すべきです。

また、内閣総理大臣が、被爆者の願いを真摯(しんし)に受け止め自ら行動してこそ、「核兵器ゼロ」の世界を 創(つく)り出し、「ゼロ(0)の発見」に匹敵する人類の新たな一頁を2020年に開くことが可能になります。核保有国の首脳に核兵器廃絶の緊急性を訴え核兵器禁止条約締結の音頭を取る、全(すべ)ての国に 核兵器等軍事関連予算の削減を求める等、選択肢は無限です。

私たち市民や都市も行動します。志を同じくする国々、NGO、国連等と協力し、先月末に開催した 「2020核廃絶広島会議」で採択した「ヒロシマアピール」に沿って、2020年までの核兵器廃絶 のため更に大きなうねりを創(つく)ります。

最後に、被爆65周年の本日、原爆犠牲者の御霊(みたま)に心から哀悼の誠を捧(ささ)げつつ、世界で最も我慢強き人々、すなわち被爆者に、これ以上の忍耐を強いてはならないこと、そして、全(すべ)ての被爆者が 「生きていて良かった」と心から喜べる、核兵器のない世界を一日も早く実現することこそ、 私たち人類に課せられ、死力を尽して遂行しなくてはならない責務であることをここに宣言します。

2010年(平成22年)8月6日
広島市長 秋 葉 忠 利

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