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社説・コラム

天風録 「天安門の顔」

 PM2・5でくすんでいるかもしれません―。観光ガイドの冗談を聞きつつ大きな顔を仰いだ。中国のシンボル、天安門に掛かる肖像画は縦6メートルあるという。無表情な顔の主は65年前、ここで建国を宣言した毛沢東である▲建国の父と写真に納まる観光客で広場はにぎわう。この指導者に中国共産党はかつて渋い評価を下した。功績七分、誤り三分。文化大革命などで人民を苦しめた。それでも「顔」を掲げ、党の支配を正統化したいのか▲毛沢東の没後もその面前で、人民の声は踏みつぶされてきた。民主化を求めて広場に集まった学生や市民に向け、人民解放軍は無差別に発砲し始め、装甲車が大勢をなぎ倒した。きょう、天安門事件から25年を迎える▲事件の蒸し返しを封じ込めようと、政府は活動家やメディアに圧力をかける。しかし人民の不満はくすぶる。ペンキ投げ付けなど党の「顔」に泥塗る騒動が今もある。昨年秋には、ウイグル族の車が突入して炎上した▲共産党が政権を握る前、孫文や蔣介石の肖像が掛かっていた時代もある。指導者の大きな「顔」を、頭上に見上げてきた隣国。国民が主役の民主主義国家となり、絵が下ろされる日は訪れるだろうか。

(2014年6月4日朝刊掲載)

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