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社説・コラム

『書評』 戦後黄金期築く少年の奮闘紹介 広島市中区出身の作家・今子さん出版 「原爆少年サッカー魂」

 広島市中区出身の作家今子(いまこ)正義さん(77)=東京都=が、「原爆少年サッカー魂」を出版した。被爆し、家族や仲間を失った広島の少年たちが戦後、高校サッカーの黄金期を築く奮闘をまとめた。今子さんは「何ものにも負けないという強さで、多くの日本代表を輩出した広島のサッカー界を知ってほしい」と話す。(石井雄一)

 原爆前に生まれた世代が高校卒業するまでの戦後約20年間、広島勢は全国に名をはせた。いずれも広島市の広島高師付属中(現広島大付属高)、修道、広島一中(現国泰寺高)、山陽の4校がしのぎを削り、全国高校選手権や国体で4強以上に計20回進んだ。うち全国優勝は10回を数えた。

 原爆で4校も校舎が倒壊し、生徒や教員が亡くなった。がれきの山を整地し、ボールは縫って使った。辛苦に耐え、後に日本代表監督としてメキシコ五輪銅メダルに導いた日本サッカー協会元会長の故長沼健さん(広島高師付属中出身)たち。日本サッカー殿堂にも入った被爆少年5人の成長を紹介している。各校の戦績や名勝負も収めた。

 今子さんは戦後、修道中・高へ進み、サッカー部にも一時所属した。数年前、都内で同窓会があり、同部OBで日本サッカー協会元専務理事の森健児さんの講演を聞き、黄金期を思い出した。国会図書館や各校を訪ねて資料を集めた。

 「生かされた使命感が『負けるもんか』という強靱(きょうじん)な精神力につながり、国際舞台でも活躍できたのだろう」と今子さん。12日(日本時間13日)にはサッカーのワールドカップ(W杯)が開幕する。「若い世代に何かを感じとってもらえるとうれしい」と願う。四六判、280ページ。1620円。南々社。

(2014年6月7日朝刊掲載)

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