×

社説・コラム

ズームやまぐち 高齢化・会員減で存続問題 岩国市原爆被害者の会

 山口県被団協に加盟する最大組織、岩国市原爆被害者の会(藤本伸雄会長、272人)の活動が岐路に立っている。会の存続の賛否を尋ねるアンケートを会員に実施したところ、回答が拮抗(きっこう)。会員の高齢化を背景にした被爆者団体の運営の厳しさが浮かび上がった。(増田咲子)

 「大人になっても忘れないでほしい。戦争ほど愚かで、平和ほど貴重なものはないことを」。副会長の竹中平一さん(83)=同市装束町=は6日、麻里布小で5年生を前に被爆体験を証言した。

「語り継ぎたい」

 旧国鉄職員だった竹中さんは、原爆投下翌日に救護活動のため岩国から広島に入った。男女の区別がつかない死体の数々、水を与えると死んでいく人たち…。被爆後、造血機能障害の診断を受け、約20年通院した経験も話し、「原爆がいかに怖いものかを知ってほしい」と訴えた。

 同会は、県被団協の地域組織がなかった岩国市に被爆50年の1995年、結成された。当初からのメンバーの竹中さんは体力の衰えを感じながらも、「子どもに力をもらいながら証言を続けてきた。語り継ぎたいという気持ちは強い」と胸の内を明かす。

 かつて500人を超えた会員数はことし、300人を割り込んだ。世話役が病気になったことなどもあり、会の存続問題が浮上。アンケートの実施は3月末の臨時理事会で決まった。

さまざまな思い

 結果は3日の総会で報告された。回答した192人のうち、100人が規模を縮小してでも継続を求め、92人が継続を希望しなかった。「体験を伝えるため存続するべきだ」「組織の弱体化が進めば国との交渉にも影響するのでは」との声の一方、「中心になって活動する理事の高齢化もあり、解散はやむを得ない」など会員の思いはさまざまだ。

 全国で被爆者の高齢化が進む。県被団協には90年、21団体が加盟していたが、現在は下松、周南、防府市など7団体に減少した。

 こうした中、被爆2世たちが組織を支える動きもある。会員約75人の山口市原爆被害者の会は、2世の寺中正樹さん(52)が事務局長を務める。乳幼児で被爆した「若い被爆者」が証言できるよう学習会も開く。

 寺中さんは「被爆の記憶がほとんどない被爆者や2世の協力、無理のない運営体制が必要だ。会は、偏見に苦しんできた被爆者が思いを共有できる場であり、心の支えになる」と指摘する。

 岩国市の会の中村美奈恵さん(52)=岩国市平田=は約4年前、被爆証言集を読んだことをきっかけに入会した。家族に被爆者はいないが、「命の続く限り体験を伝えたいと願う被爆者をサポートしたい」と理事として会報を編集し、子どもが被爆証言を聞く機会を積極的につくってきた。

 会は16日に理事会を開き、来年度以降の存続について話し合う。藤本会長(73)は「理事とよく話し合って決めたい」と話している。

(2014年6月11日朝刊掲載)

年別アーカイブ