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社説・コラム

社説 自衛権と党首討論 首相は前のめり過ぎる

 安倍晋三首相からすれば、うまく乗り切ったと思っているかもしれない。

 今国会で初めての党首討論がきのう開かれた。第2次安倍政権では3回目となる。焦点はもちろん、集団的自衛権の行使容認をめぐる論戦だった。

 民主党の海江田万里代表が安倍首相に問うたのは、なぜ憲法の改正ではなく解釈の変更で行使容認を目指すのか、ということだ。多くの国民も抱き続ける根本的な疑問である。

 しかし安倍首相はこれまで通り自らの考えを語ることに終始し、議論はかみ合わなかった。

 真っ先に首相が強調したのは、海洋進出を強める中国や、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮の動きだ。日本を取り巻く安全保障の環境が厳しくなっているのは確かだろう。だが首相の前のめりの姿勢には危うさを感じずにはいられない。

 首相は「必要最小限度」の集団的自衛権の行使として、「近隣国」の紛争で避難している日本人を運ぶ米艦船を自衛隊の艦船が守る事例を挙げた。「国民の命を守るための憲法が、その責任を果たさなくてもよいと言っているとは思えない」と強調し、いまの憲法でも認められるとの考えを示した。

 さらに目立ったのは、「私は最高指揮官として自衛隊とともに日本を守っていく責任を負っている」といった首相の発言である。久しぶりの党首討論が論理的というよりも、情緒的に進んだ印象は否めない。

 忘れてならないのは、行使容認に慎重な連立相手の公明党は米艦船の事例を「個別的自衛権で対応できる」と主張していることだ。

 与党のトップ同士が党首討論で論戦を交わすことはない。それでも、国民からすれば、安倍首相と山口那津男代表の議論こそ聞きたいのではないか。

 党首討論を終えた安倍首相が目指すのは、会期末が22日に迫る今国会中に憲法解釈の変更を閣議決定することである。集団的自衛権の行使容認をめぐる次回の与党協議が13日に開かれ、その場に自民党としては閣議決定の案を示したい考えという。公明党に配慮し、決定を先送りする案もあるようだが、短い期間にとどまりそうだ。

 首相はこれまで閣議決定の時期について「期限ありきではない」と繰り返してきたはずである。ここにきて決定を急ぐよう、姿勢を転換したのは、なぜなのだろう。

 自民党の高村正彦副総裁は、年末の日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定に間に合わせるためと説明しているが、果たしてそれだけだろうか。

 米国側からは、そうした対応を日本政府に望む意見があるという。一方で、必ずしも期限にはこだわらないとの声も聞こえてくる。

 とすれば、安倍首相には支持率が高いうちに憲法解釈を変更してしまおうという腹があるのではないか。議論に時間をかければかけるほど、国民が熟慮し、批判が強くなると恐れているようにも見える。

 国の安全保障の形を大きく変える集団的自衛権の行使を容認するのであれば、憲法の改正が筋であるとの意見は根強い。それをあと2週間足らずの間に、閣議決定で済ませようというのは、あまりに拙速である。

(2014年6月12日朝刊掲載)

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