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首相、与えた期待と失望 「被爆者を非核特使に」 政権の独自性アピール

■記者 岡田浩平

 菅直人首相は6日、広島市の平和記念式典に出席し、被爆者を「非核特使」として国際的な場に派遣する構想を明らかにした。核兵器使用の非人道性を世界に広く発信する役割を想定している。構想表明は、政権交代後初めて迎える広島原爆の日に、民主党政権の独自性を打ち出す狙いがある、とみられる。

 式典であいさつした菅首相は「『核兵器のない世界』の実現へ先頭に立って行動する道義的責任を有する」と表明。5月に米ニューヨークで開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議の最終文書採択には、被爆者の貢献があったと指摘した上で、被爆者を非核特使とする構想を打ち出した。

 その役割に言及し「日本を代表して、さまざまな国際的な場面で核兵器使用の悲惨さや非人道性、平和の大切さを発信してほしい」と期待を込めた。

 式典後、菅首相は非核特使について、非政府組織(NGO)の活動の中で被爆者に非核特使の任務を担ってもらい、それを政府が支援する考えを示した。派遣方法や活動内容、開始時期などの検討を急ぐ姿勢を見せた。

 また、菅首相は、中区のホテルであった「被爆者代表から要望を聞く会」に出席。非核特使構想のほか、胎内被爆者とその家族の支援強化や、「黒い雨」の大雨地域拡大に向けた検証を進める考えを伝えた。被爆地訪問の最後には、安芸区の原爆養護ホーム「矢野おりづる園」を訪れた。

「核抑止力は必要」 会見で明言

■記者 高橋清子

 菅直人首相は6日、平和記念式典に参列後、広島市中区のホテルで記者会見した。秋葉忠利市長が平和宣言で「『核の傘』からの離脱」を日本政府に求めたのに対し、「核抑止力はわが国にとって引き続き必要と考えている」との認識を示した。

 菅首相は、秋葉市長の平和宣言に関して「核軍縮に向けた強い思いを込めて言われた。そうした思いは共通なところもある」と理解を示した。一方で、国際社会での大規模な軍事力の存在や核兵器などの大量破壊兵器の拡散を挙げ、核抑止力を明確に肯定した。非核三原則は「堅持する方針に変わりはない」としつつ、法制化には言及しなかった。

 また、オバマ米大統領が11月に来日した際には「広島、長崎の訪問が実現すれば大変意義深い。最終的に決めるのは米国であり、現在の段階であまり私の方からこうすべきとかいうことは控えた方がいい」と述べた。

市民、憤りや疑問の声

■記者 教蓮孝匡

 菅直人首相が6日、「核抑止力は必要」と被爆地広島で明言したことについて、広島市中区の平和記念公園を訪れた市民からは憤りや疑問の声も出た。

 祖父母が被爆死した広島市安佐北区の主婦山崎純子さん(40)は「核廃絶に向けて世界が動きだしたのに…。被爆地を抱える国の首相の発言とは思えない」と嘆いた。

 佐伯区の梶井良雄さん(78)は「現実を乗り越え、核兵器廃絶を進めるのが首相の役割。菅さんの意気込みが感じられない」と残念がった。一方、南区の主婦小松房英さん(75)は「理想は早期の核兵器廃絶」としつつも「核保有国が存在する。日本だけが『核の傘はいらない』とは言えない気もする」と複雑な思いを語った。

「核の傘」離脱 岡田外相否定 「見解異なる」

 岡田克也外相は6日、広島市中区の平和記念公園であった平和記念式典に菅直人首相とともに出席した。党の有力な核軍縮論者として知られるが、目立った発言はなかった。

 岡田外相は、大臣就任まで民主党核軍縮促進議員連盟の会長を務めた。式典では、秋葉忠利市長の平和宣言をじっと聞き、拍手を送った。菅首相と一緒に見学した原爆資料館では、被爆の惨状を刻んだ遺品や市中心部の模型に見入った一方で、案内役の前田耕一郎館長に質問する場面はみられなかった。

 帰京後、岡田外相は外務省で定例会見に臨んだ。政府に「核の傘」からの離脱を求める平和宣言についての質問に答え、「米国の核の傘なくして日本国民の安全を確保するのは極めて困難。見解が異なる」と述べた。

(2010年8月7日朝刊掲載)

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