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社説・コラム

社説 イラク緊迫 米外交の真価問われる

 イラク情勢が緊迫している。イスラム教の過激派が北部を制圧し、政府軍が応戦している。混乱に乗じ、クルド人も勢力拡大に動く。事実上の内戦という見方もあり、国家の分裂にまでつながりかねない。

 米国の動きが注目される。オバマ米大統領は当面、過激派への空爆を見送るもようである。10年余り前のイラクへの軍事介入が泥沼化したことを顧みれば、妥当な判断といえよう。

 隣国シリアの内戦も重なって、中東地域は不安定になっている。いまこそ、オバマ氏は理念に掲げてきた協調外交を積極的に進めるべきではないか。

 米国は、イラク混乱の責任を免れない。大義が疑わしいとされるイラク戦争に踏み切り、市民に犠牲者約11万5千人を出して国力の疲弊を招いた。その揚げ句、開戦の理由に掲げた「テロとの戦い」の成果も見えてこなかった。

 今回、米議会では野党共和党を中心に限定的な空爆を求める声があり、マリキ政権も無人機を念頭に要請した。しかし、都市部でゲリラ戦を展開する過激派へのピンポイント攻撃は困難を極め、住民を誤爆する危険性も高いだろう。かえって米国への反感を招くことにもなりかねない。

 オバマ氏は、宗派間の融和策を実現させることに力を注ぐとしている。当然であろう。協調外交の路線を貫くことだ。そのためにも、外交努力は徹底しなければなるまい。

 イラクから米軍は11年末に完全撤退したが、その後の国づくりまで描いていただろうか。爆弾テロが後を絶たず、宗派や民族の対立は根深いまま―。そんな政情であれば、安定までの過渡期には支援がいる。戦争疲れも相まって、支援に及び腰だったとはいえまいか。米国内でのシェールガス生産にめどがたち、中東への関心が薄れたとの指摘もある。

 2期8年続くマリキ政権の後押しをしてきたが、戦後の統治に失敗したといえよう。政権にはシーア派を優先し、宗派間の融和には積極的でないとの批判がつきまとう。政治腐敗が指摘され、国民からの信頼も薄い。

 オバマ氏は、スンニ派との協力関係を築かなかったことが国家としての結束を弱め、過激派の台頭を招いたと批判した。だが、もっと早くから目配りすべきではなかったか。マリキ政権に融和を徹底して求め、さもなければ退陣でスンニ派などを含めた政権への交代を促すのも選択肢に挙げられるだろう。

 アラブ諸国や場合によってはイランとの協力も考えられよう。イラクで歯止めをかけないと中東全体に混乱が広がる。

 シリア内戦に乗じ、イラクの過激派が勢力を増していった点は看過できまい。内戦でゲリラ戦術を身につけ、制圧した油田で資金を得た。市民への無差別な攻撃を辞さないこうした組織の温床ともなりかねない。

 中東地域が不安定になれば、日本にとってエネルギーの危機が増す。石油が急騰すれば経済や暮らしへの打撃は大きい。

 日本の岸田文雄外相はケリー米国務長官と電話会談し、日米が緊密に連携して対応する方針で一致した。日本は同盟国に対し、実力行使ではなく外交によってイラクを安定させる道を求めるべきであろう。

(2014年6月20日朝刊掲載)

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