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社説・コラム

『潮流』 台湾ガイドの哀歌

■論説委員・田原直樹

 清らかな望郷の歌声は少々、哀調を帯びてバス車内に響いた。少し前に台湾を旅した折、観光ガイドの胡さんが披露してくれた。

 50歳すぎの胡さんは、14の先住民族のうち、山岳地帯に住むブヌン族出身という。目鼻立ちのはっきりした顔のため「漢族の台湾人にしばしば英語で話しかけられます」。そう笑った顔に、少数民族とその文化のたどってきた苦難の歴史がにじんで見えた。

 穏やかな案内役と巡った台湾路でも、「対岸」の伸長ぶりが目についた。もの悲しい声の理由は、そんなところにもあったろうか。

 馬英九政権の中国寄りの政策を警戒、反対する学生たちが、ちょうど立法院(国会)を占拠していた。周囲に張り巡らされた鉄条網が物々しかった。

 胡さんの顔は、故宮博物院でも曇った。中国歴代王朝の宝物並ぶ館内は、中国人観光客でいっぱい。大きな声で話しながら巡る団体もある。通り過ぎるのを待って、名品を見て回った。

 台湾を訪れる外国人旅行客は今や、中国人が日本人を上回る。だがマナーの悪い観光客も目立つそうだ。

 わがガイド氏も以前は中国人観光客を案内したそうだが、日本語を学び「くら替え」したという。子細は聞けなかったが、中国人ツアーでは閉口する場面が多かったらしい。

 さて故宮で日本人も中国人も魅了されるのが、精緻な彫刻「翠玉白菜」。門外不出とされてきた宝物が、来週から東京・上野の東京国立博物館で展示される。東日本大震災の折に寄せられた義援金に続く、最大級の「親日」の表れに違いない。

 一方、日本からお返しできるのは何だろうか。台北郊外に建設中の原発というなら悲しい。激しい反対デモが伝えられる。

 台湾の親日に報いる道は何か。胡さんの歌を思い出しながら考えている。

(2014年6月21日朝刊掲載)

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