×

社説・コラム

社説 河野談話の検証報告 日韓の火種消す努力を

 これではむしろ、日韓両政府の新たな火種となりかねない。

 政府はおととい、従軍慰安婦問題で旧日本軍の関与と「強制性」を認めた「河野談話」の検証結果を国会に報告した。

 安倍晋三首相は「談話を見直すことはない」とする。それでも検証を進めたのは、談話の中身に不満を持つ国内の支持層に一定に配慮したのだろう。

 一方、それが対外的にどう受け止められるかについて、どれほど考えを巡らせていたのだろう。韓国との関係改善はかえって遠のいたと言うほかない。

 談話は21年前、慰安婦問題について当時の河野洋平官房長官が見解を示したものである。旧日本軍の関与を認め、「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」として謝罪した。

 今回の報告の最大のポイントは、その談話の作成過程で韓国政府と水面下の交渉があったことを明らかにした点にある。軍の「関与」などは、韓国側の意向も踏まえて表現が決まったとした。また元慰安婦たちの証言については裏付け調査がなかったことを確認したという。

 ただ、これで談話の意義が大きく損なわれたことにはなるまい。終戦から当時の聞き取り調査まで48年のブランクがあり、証言の裏付けが難しかったのはやむを得ない面があろう。軍の強制性を示す証拠がなかったからといって、かつての軍国主義がアジアの人々の人権を踏みにじったことは疑いようがない。

 交渉の舞台裏を公表したことは、韓国からすれば外交の信義に反する行為であろう。それでも日本政府が踏み切った背景を考えると、政治的な思惑が透けて見えてくる。

 一つは、河野談話の内容は当時、韓国側も納得していたと示すことにある。近年、談話を根拠に加害責任を蒸し返す形で反日キャンペーンを強める韓国へのけん制にほかなるまい。

 2点目は、来年の戦後70年に合わせて発表を検討する安倍首相談話への布石となることだ。今回の検証を踏まえ、河野談話を上書きする形で歴史認識の問題に区切りをつける、との見方は自民党内にも根強くある。

 しかし、いずれにしても日韓関係を根底から改善していこうとする戦略は見えない。深く憂慮するほかない。現状のままでは未来志向のアジア外交が描けるはずもなく、国際的な理解を得る見通しも立たないだろう。

 むろん韓国政府側にも顧みてもらいたい点が少なくない。

 検証報告と同じ日、韓国軍は島根県の竹島沖の海域で射撃訓練を実施した。実効支配を続けている上、軍事訓練に踏み切るのは極めて横暴だ。国民の愛国心を鼓舞することで政権の求心力を回復させたいのだろうが、許される行為ではなかろう。

 来年は日韓の国交正常化50年という歴史的な節目でもある。なのに両政府はこのところ、外交の修復力を失っている。

 お互いに単なる隣国という関係にとどまらない。安全保障や貿易のパートナーとして基本的な価値を共有する。北朝鮮の核開発問題への対応をめぐっても2国間の亀裂は、つけ込まれる余地を残すだけである。

 対立と不信の連鎖を断つのは容易ではなかろう。だが双方が談話にこだわるだけでは、何ら果実を生まないのも確かだ。和解の道を模索するしかない。

(2014年6月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ