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被爆建物の再活用断念 広島県が商業施設化検討の旧広島港湾事務所 老朽化 かさむ改修費

 広島市南区宇品海岸に残る被爆建物、旧広島港湾事務所について、県が商業施設として再活用する案を断念していたことが22日、分かった。広島市内に現存する唯一の明治期の木造洋館として歴史的価値もあるが、老朽化が激しく耐震化や改修に費用がかさむためという。県は保存の在り方を再検討している。(城戸良彰)

 建物は1909年に広島水上警察署(現広島南署)として建造。被爆して一部が損傷したものの倒壊を免れた。65年に県の広島港湾事務所となり、81年からは書庫として使われたが、2010年1月以降は利用されていない。県の試算では、内部を含めて利用するには耐震化や改修で2億円以上が必要という。

 一方で、近くの岸壁沿いにある空き倉庫群には、カフェやインテリアショップ、結婚式場が次々にオープン。新たなにぎわいの場となりつつあることから県は、建物を保存しながら商業施設に活用することを検討。12年10月の県議会建設委員会で提起し、耐震化や改修をした上で出店者を公募する予定だった。

 だが、財源の一部と見込んでいた国の地域自主戦略交付金が12年末の政権交代で打ち切られ、財源確保の見通しが立たなくなり、13年3月に断念した。

 建物は、天井や壁が剝がれるなど老朽化が進む。県は内部に突っ張り棒を据え、外側を金網で囲って近づけないようにしている。県土木総務課は「外観のみの公開にとどめて改修費を抑え、長期の保存を目指すのが現実的ではないか。県民の理解が得られるように検討したい」と話す。

 被爆建物の旧陸軍被服支廠(ししょう)(南区出汐)の活用を求める市民団体「旧被服支廠の保全を願う懇談会」の中西巌代表は「被爆建物は無言の証言者として被爆の実像を伝える。ただ残すだけでなく、活用策も考えてほしい」と願う。

旧広島港湾事務所
 明治後期の洋風建築で木造2階建ての延べ約360平方メートル。原爆の爆心地の南東4・6キロにあり、被爆で屋根が浮き上がり、はりが折れたが、倒壊を免れた。1993年に広島市の被爆建物に登録され、県教委が98年にまとめた報告書「県の近代化遺産」にも掲載されている。

(2014年6月23日朝刊掲載)

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