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社説・コラム

社説 空中給油機の移転 「負担増」現実のものに

 岩国基地の機能は一段と強化されよう。米海兵隊の空中給油機部隊の15機が来月8日から8月末にかけて沖縄・普天間飛行場から移ることになった。

 基地が集中する沖縄の負担軽減に結びつくのは確かだろう。逆に岩国にとっては一連の米軍再編に伴う負担増が、初めて現実のものとなる。福田良彦市長は半年前に受け入れを表明している。「やむを得ない」と考える住民も増えたようだ。

 ただ不安が消えたわけではない。単に負担たらい回しの発想でいいのか。沖縄の人たちを苦しめてきたような、好き放題な訓練ならば許されまい。

 空中給油機は航空戦に欠かせない。その能力が失われれば戦闘機や輸送機が遠くまで飛べないからだ。移転後の基地の戦略的重要性もおのずと高まろう。日常の騒音や訓練の危険だけでなく万一の際に敵対する側から攻撃やテロの標的になる可能性はやはり否定できない。その点はあいまいにされている。

 部隊の詳しい運用が地元に示されそうにないのも気掛かりだ。さまざまな航空機に給油する任務のため訓練が多様化、広域化するとの見方もある。米軍は情報を最大限公開し、日本政府も強く促す必要がある。

 だが安倍晋三首相の言動からは岩国側の不安が置き去りになりつつある印象も拭えない。空中給油機移転を、沖縄の負担軽減の目に見える成果としてアピールする姿勢が目につく。

 本来は現政権の「手柄」ではなかろう。1995年の少女暴行事件を踏まえ、日米政府が普天間返還を合意した折に持ち上がったものだ。のちに米軍再編計画の一部に組み込まれたが、そもそも沖縄にとって最初から織り込み済みの話である。

 岩国市の側も紆余(うよ)曲折を経ている。97年に空中給油機を容認したが、新庁舎建設に充てた見返りの補助金が米軍再編への賛否をめぐって一方的に凍結されたこともある。首相はこうした過去の経緯にも、しっかり目を向けてほしい。

 民主党政権時代に沖縄の地上部隊の一部を岩国に移す案が浮上し、猛反発で立ち消えになったのは記憶に新しい。比較的基地に理解のある街とはいえ、新たな負担増に敏感であることを現政権も肝に銘じるべきだ。

 次は59機の空母艦載機部隊に焦点が移ってくる。2017年ごろまでに神奈川県の海軍厚木基地から岩国に移る計画であり、愛宕山の米軍住宅を含め関連施設の整備は着々と進む。

 ただ艦載機は騒音というリスクで空中給油機の比ではない。耐えがたい音をもたらす夜間離着陸訓練をどこで実施するかもいまだ結論が出ていない。まさに課題は山積していよう。

 福田市長は艦載機移転への協力姿勢は示しつつも容認するかどうかは明言していない。一方で根強い反対運動も続く。米軍再編を経て、極東最大級となる基地に地域はどう向き合えばいいか。はっきりとした答えが出ないまま、ずるずる時間ばかりが過ぎてきた感もある。

 現実に基地被害に直面してから悲鳴を上げ、対策を訴えても国や米軍の腰が極めて重いのは沖縄や厚木の事例からも明らかだ。今のうちに何をすべきか。まずは空中給油機の運用を、地元として厳しくチェックしながら議論を急ぎたい。

(2014年6月26日朝刊掲載)

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