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憲法 解釈変更を問う NGO日本国際ボランティアセンター代表理事・谷山博史さん 「武器持たぬ」で信頼築く

紛争地警護は非現実的

 安倍晋三首相は「海外でボランティア活動をする日本の若者が突然武装集団に襲われても、今のままでは自衛隊は救えない」との理屈で、自衛隊の駆け付け警護を正当化した。しかし、非政府組織(NGO)は自衛隊による警護を想定していない。これまでも自衛隊のいない場所で活動してきたし、今後も自衛隊に守ってもらうことを前提に活動するわけではない。

 紛争地を含む海外や日本国内で活動してきたNGO日本国際ボランティアセンター(東京)に1986年から参加。タイやラオス、カンボジア駐在を経て、2002年にアフガニスタン現地代表を務めた。戦禍で荒れる世界の紛争地を見つめてきた。

 NGOは二重、三重の安全対策を講じて行動している。その基本は現地社会に受け入れられること、治安情報の収集・分析、目立たないことだ。

 それでもNGO職員が誘拐されたり、拘束されたりする可能性はある。だが、自衛隊が武力で救出することは現実的ではなく、交渉による解決を目指すことが何よりも重要だ。地元の有力者や赤十字国際委員会(ICRC)などを仲介に立てて交渉する。実際、アフガンで起きた誘拐事件のほとんどは交渉で解決された。日本政府の言う駆け付け警護は、想定が難しい極めてレアなケースだ。

 政府はこれまで、海外での自衛隊の武器使用について、相手が「国または国に準ずる組織」の場合、憲法が禁じる「国際紛争を解決する手段」としての武力行使に当たる恐れがあると解釈。原則として武器使用を正当防衛や緊急避難に限ってきた。01年の米中枢同時テロを受けた米国のアフガン攻撃に際し、反政府武装勢力タリバンを「国に準ずる組織」とみなし、自衛隊の関与に歯止めをかけた。

 日本はアフガンで最も信頼される国とみられている。日本だけはタリバンにも住民にも銃を向けず、生活再建などの支援に徹したからだ。

 紛争の現場は非常に複雑だ。一般住民と反政府武装勢力が区別できない状態で混在し、誰が敵で、誰が味方かを見極めることは難しい。安倍政権は「武装グループがNGOを襲撃し、そこに自衛隊が駆け付ける」という勧善懲悪のようなストーリーを描いているかもしれないが、現実はそう単純ではない。

 ひとたび銃口を住民に向けるとどうなるか。外国軍の誤爆、誤射が日常的にあり、殺された一般住民は報復を誓う。アフガンでは、タリバンに対抗していた人たちまでもがタリバンと結び付いた。そうしてタリバン支持が膨れ上がり、戦闘がエスカレートした。

 紛争地では、武力を行使しなかったからこそ救われた命がたくさんある。武器を持たないことによる信頼が安全を保障する大きな力になる。それは、われわれが経験してきたことだ。

 武力行使をいとわない国際貢献を目指す日本政府の議論で欠けているのは、「失うもの」の大きさに対する認識だ。これまでの非軍事に徹した国際平和協力は他国にはできない。戦後約70年かけて築き上げてきた日本の「資産」を、NGOを守るためという非現実的な理由で失ってはならない。(聞き手は城戸収)

(2014年6月27日朝刊掲載)

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