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社説・コラム

天風録 「百年の橋渡し」

 囲碁は百年をつなぐ―という言葉をのこしたのは、原爆が投下された日の広島で対局した当時の橋本宇太郎本因坊だ。小さいころは年配者と、老いては孫世代と盤を囲み、「百年の橋渡し」ができるからだろう▲囲碁のタイトル戦、碁聖戦5番勝負の第1局がきのう、宮城・松島で打たれた。厳島、天橋立とともに日本三景の一つ。盤上の白熱戦は、震災後、全国のボランティアと住民が協力して日常を取り戻した証しでもある▲被災地ではいち早く復興へ歩んだこの地。1階が水没した沿岸の土産物店や崩れた橋脚、流された橋は元通りになり、直後を物語る痕はほとんど見えない。だが災害に強い、安心できる暮らしへの策は欠かせまい▲防災・減災に何が足りないのか災厄から気づき、克服する一手を打つ。囲碁にも通じよう。井山裕太碁聖が説くステップアップの定石である。敗れてこそ自分の弱さが見え、強くなれるチャンスに変えることができる▲本因坊戦は戦時下にも持ちこたえ、広島のあの日の盤は揮毫(きごう)とともに今に伝えられている。震災復興の取り組みもまた、百年の橋渡しとなるべく語り継がれることを願いたい。そのためには百年の計で考えなければ。

(2014年6月27日朝刊掲載)

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