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社説・コラム

天風録 「戦火のリズム」

 チョビひげに、ぶかぶかの靴とステッキ。喜劇王チャプリンが銀幕に登場し、ことしで100年になる。実は数編の小説も残した。その一つ「リズム」が、うら悲しい▲「気を付け、構え、狙え、撃て」。4拍子で進む処刑場が舞台だ。指揮官は、その日の処刑者が昔の親友と気付く。ためらいつつも「狙え」。直後に中止の伝達が届いた。「待て」と必死に叫んだものの、リズムに乗る兵士の引き金は止められず…▲歯車が回りだすと、止めにくい。戦争もそうだろう。第1次世界大戦の惨禍を見聞きしたチャプリンは、その不条理を小説に投影したのかもしれない。きょう、大戦の引き金となったサラエボ事件からちょうど1世紀▲オーストリア皇太子夫妻を襲った銃弾は、世界を戦争の渦に引き込んだ。防衛が各国の大義名分となり、国民を大戦の熱狂へと駆り立てる。戦火のリズムに操られた末の死傷者は3千万人に上った。「誰も望まなくても戦争は起こる」。歴史家バーバラ・タックマンの言葉が重い▲衝突の火種があちこちにくすぶる。いつ再び戦いの炎となって広がらないとも限らない。100年前のリズムが世界に、いや日本に重く、重く響いてはいないか。

(2014年6月28日朝刊掲載)

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