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新入生から地域学習 広島大と広島修道大が新カリキュラム 関心高めアイデア育む

 新入生のうちから広島の地域課題に関心を持たせる広島大と広島修道大の新しいカリキュラムが本年度、動きだした。文部科学省の「地(知)の拠点整備事業」の一環。地域への関心やアイデアにあふれた学生を輩出し、地域に根差した大学としての存在感も高めたい考えだ。(新本恭子、馬場洋太)

 「これはもぎ取っていいですか」「正解よ。よう覚えてくれたね」。14日、広島県大崎上島町。高級かんきつ「せとか」の摘果を体験する広島大生物生産学部の1年生のおぼつかない手つきを、農事組合法人「シトラスかみじま」の金原邦也組合長(74)が見守り、優しく助言した。

 同学部の1年生104人は今月、山間部や島など「条件不利地域」とされる県内9カ所に分かれて訪問。農業や漁業の現場で、生産者の思いを聞いた。

 シトラスかみじまには、10人が出向いた。摘果のほか、金原組合長から、後継者の受け皿を意識して法人を設立し、ミカンより寒さに強くハウス栽培の燃料を節約できる「せとか」を選んだ経緯など、苦労話を聞いた。村上友梨さん(18)は「『まずは関心を持って』と話し掛けられたことが心に残った」と話した。

全学部に拡大

 広島大は文科省の事業を通して「平和共存社会」を育む拠点になることを理念に掲げる。具体的には、①条件不利地域対策②被爆体験継承と平和の発信③障害者支援―を広島の地域課題の柱とし、学生に現場を体験させながら、地域への愛着や貢献意欲を高めてもらう。本年度はまず五つの学部が①~③のうちのいずれかの事業に取り組み、該当地域に新入生を送り込む計画だ。

 「大学が東広島市に移転し、広島という地域への意識が薄れている」。岡本哲治理事・副学長が、背景にある危機感を明かす。学生の7割は県外出身者だが「在学中に広島の特徴や歴史、課題を語れるようになってほしい。地域課題を見つけ出す力は、卒業後の活躍の場がどこであれ、必要になる」と説く。来年度からは、取り組みを全学部に広げる方針だ。

 修道大は、希望者が所属学部の枠を超えた統一カリキュラムで4年間、地域づくりを考え、実践する「地域イノベーションコース」を新設した。2010年以降、学生が課外活動やゼミで地域づくりに関わってきた実績を踏まえ、より体系的に学べる体制にした。4月から新入生120人が受講している。

 なぜ新入生からか。専門教員として着任した田坂逸朗講師は「イノベーションは、人と違う発想から生まれる。『先生、これでいいですか』と正解を求める高校生の感覚でない、柔らかい頭をつくるには、早く始める方がいい」と強調する。

 授業では、各学生がアイデアを書いた紙を回し読みして、感想を添え、教室内でアイデアを膨らませる。「どうせ無理と思わず、思い付いたら口にしよう」がモットーだ。

 ある学生は「移動時間も楽しい街に」と、路面電車内で飲食しながらおしゃべりできる「市電カフェ」を提案。電車の遅さを逆手に取った発想に、賛同する感想が多く集まった。同大は卒業生の6割が県内で就職するだけに、田坂講師は「地域の資源に気付き、新しい価値を生み出せる学生が増えれば、広島はもっと面白くなる」と期待する。

「公共財残す」

 同コースの学生は今後、広島、廿日市の両市や広島県北広島町の現場で、住民を交えて地域課題について考える予定。3、4年生になると、テーマを決めて地域に入り、課題に向き合って成果を残す。具体的には、地域の特産物の歴史を教材として編集したり、街を巡る際に役立つスマートフォン用アプリを開発したりする。

 プロジェクトを主導する山川肖美(あゆみ)副学長・ひろしま未来協創センター長は「地域に溶け込んでイベントを手伝ったりするだけでなく、専門性を生かし、その学生が卒業した後も地域に受け継がれるような公共財を残せるように導いていきたい」と話す。

(2014年6月30日朝刊掲載)

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