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社説・コラム

憲法 解釈変更を問う 疑問拭えぬ容認

被爆3世の企画制作会社社長 渡部久仁子さん(33)

平和の取り組み否定

 集団的自衛権の行使を容認する閣議決定には、怒りを禁じ得ない。一方的に憲法解釈を変更した政府のやり方は、非常に姑息(こそく)だ。憲法の軽視は、主権者である国民を軽視していることと同義である。

 戦後69年間にわたり、広島、長崎の被爆者は戦争や核兵器の悲惨さを訴え続けてきた。高齢化が進む今なお、命を削りながら体験を懸命に伝えている。

 行使容認によって武力行使に道を開けば、被爆者の取り組みを根本から否定することになる。広島、長崎を訪れ、平和の尊さに触れてきた国内外の人への裏切り行為でもある。

 「軍事的な抑止力を強めることで、紛争を未然に回避できる」という考え方は幻想だと私は思う。日本への他国の懐疑心を強めるだけではないか。「武器輸出三原則」の全面見直しなどに続き、戦後築いてきた平和主義の形をこれ以上壊せば、後戻りできなくなる。

 安倍晋三首相は、さまざまな理屈をつけて行使容認の必要性を説き、日本に危険が及ぶことはないかのように訴えてきた。根拠の分からない自信がかえって怖い。私の頭には、戦場で犠牲になる人たちの映像しか浮かばない。

元防衛相 北沢俊美さん(76)

立憲主義無視の決定

 与党協議では当初、政府が提示した具体的な15事例を検討していた。その結論を出さないまま、閣議決定の文案の議論に移った。武力行使の3要件の根拠となる事例が何なのか、あいまいだ。極めて不誠実な態度で、国民をないがしろにしている。

 安倍晋三首相は、現在のわが国の防衛体制では自衛隊の権限や武器使用などで隙間があると言う。だが、憲法解釈を変更しなくても周辺事態法の改正を含め、必要な法体制の整備で十分対応できる。今回の閣議決定の中心にあるのは、集団的自衛権の行使容認を何が何でも実現したいという安倍首相の幼児的な願望だ。

 日本は今回、安全保障政策を大転換した。年末までに目指す日米防衛協力指針(ガイドライン)の改定作業で、米国は相当な要求を出してくるだろうし、日本に期待もしている。こちらが「限定的だから対応できない」と断れば、日米間の信頼関係も阻害される。

 どう見ても、今回の閣議決定は乱暴かつ不透明で、立憲主義を無視している。今月中にも予定される衆参両院予算委員会の集中審議や秋からの臨時国会で徹底的に追及する。「右寄り政権」の潮目を変えたい。

前駐中国大使 丹羽宇一郎さん(75)

反対訴え続けるべき

 政府や自民党が、集団的自衛権の行使容認について説明し理解を得る相手は国民だ。公明党と合意すれば済む問題ではない。日本の国土を守るため、自衛隊に入った人もいる。そうした隊員に憲法改正もせずに海外で戦争をしろと命じる権限は誰にもないはずだ。

 「必要最小限度」の武力行使や、原油タンカーが行き交うペルシャ湾の機雷封鎖は、現実離れした想定に感じる。相手を倒すため必死になるのが戦争で、必要最小限度の武力行使などあり得ない。機雷封鎖も日米だけの問題ではなく、世界中を敵に回す行為だ。起こりえない議論で、政府・与党の言葉遊びが過ぎる。

 海外での武力行使に1度でも参加すれば、次の要請を断るのは難しくなる。これからも日本は平和国家として、紛争地への食糧や医療支援などに徹した国際貢献を続けるべきだ。

 政府は、秋の臨時国会から来年の通常国会にかけて自衛隊法などの法改正を想定しているという。関連法案の審議が始まれば、政府方針を撤回させることはさらに難しくなる。若者や子どもたちが戦地に送られないよう、集団的自衛権の行使容認に反対する声を上げ続けることが必要だ。

元外務省国際情報局長 孫崎享さん(70)

テロ呼び込む危険性

 日本政府は戦後一貫して、集団的自衛権の行使はできないと表明し、国民もそれに納得してきた。時の内閣が一方的に憲法解釈の変更を閣議決定し、行使を容認したことは、法治国家の根底を揺るがす行為。日本の民主主義の危機だ。

 安倍晋三首相は5月の記者会見で、行使が必要な具体例として、邦人輸送中の米輸送艦の防護を挙げた。だが米艦による邦人輸送は現実的ではない。それをあたかも起こり得るように説明している。行使容認の実態は、日本が米国の軍事作戦の中で、一体的に行動する国になることだ。

 するとどうなるか。イラク戦争への支持を背景に、スペインでは2004年、列車同時爆破テロ事件によって191人が死亡した。日本も今後、テロを呼び込むリスクが高まる。「国の安全を守るため」と安倍首相は強調するが、かえって危うくする。

 日本が米国の要請を断れる可能性はほとんどないだろう。集団的自衛権に地理的制限はなく、自衛隊が地球の裏側まで行くこともあり得る。武力行使の「新3要件」など何の歯止めにもならない。国民は、それをしっかりと理解した上で行動すべきだ。

<第9条>

①日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

(2014年7月2日朝刊掲載)

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