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「危険性増す」自衛官は複雑 基地の町 思い交錯 集団的自衛権閣議決定

 自衛隊の基地を抱える町は重い空気に包まれた。自衛隊創設60周年を迎えたこの日、打ち出された安全保障政策の大転換。呉市、広島県海田町、岩国市で、隊員や家族、市民はさまざまな思いで閣議決定を受け止めた。

 「あなたたちの命を守りたい。声を上げましょう」。呉市の海自隊呉基地近くの海上に拡声器の声が響き渡った。閣議決定に先立ち、市民団体ピースリンク広島・呉・岩国の11人が船を出し集団的自衛権行使への反対を訴えた。西岡由紀夫呉世話人(58)は「隊員の命を守っているのは9条」と憲法解釈変更を憤る。

 自衛官の心中は―。江田島市の40代の海上自衛官男性は「命令があれば遂行する。ただ危険性は増す。妻子がおり保険は最大限掛けようと思う」と重い口を開いた。呉基地の50代の男性自衛官は「行使事例と任務の根拠を明確にすれば危険度は減るが、全体でみれば危険な任務が増える」。

 陸上自衛隊海田市駐屯地(広島県海田町)のベテラン隊員は「現場で『撃つ』かどうか難しい判断が求められる局面があるだろう」とみる。

 呉基地の40代男性自衛官は「非現実的な議論でここまできた。靖国参拝や河野談話検証など近隣諸国との緊張は高まっている。今の政治家が命令を出すことに危うさを感じる」と割り切れなさを口にする。

 市民には戦争の2文字がよぎる。呉市の農業増野雅夫さん(77)は「海外で戦争できる国づくりをしているように思える。武力による平和はあり得ない」。同市の主婦片岡由布さん(26)は「人命に関わる問題なのにいつの間にか閣議決定まできた」と政府を批判する。

 呉市の大学4年上田佳奈さん(22)は「戦地に行くのは身近な自衛官と考えると心が痛い。でも友好国が攻撃された時に見ているだけでいいのか」と迷う。同市の無職三上隆之さん(84)は「国際協調に乗らないと国土を守れない」。反対、賛成、そして判断しかねるという声が渦巻く。

 隊員家族の思いもさまざまだ。海自呉基地に勤務する隊員の30代の妻は「命の心配をしなければならないと思うと心労がたまる」。夫が岩国基地隊員の30代女性は「自分たちだけ守ってもらう現状はおかしい。夫が紛争地に行くのは心配だが覚悟はある」と、かみしめるように語った。

 これからも集団的自衛権行使に必要な法整備をめぐり議論は続く。海自OBたちでつくる呉水交会の勝山拓会長(69)は「隊員の心の支えは国民の支持。国論が割れる中での任務は複雑だろう」と、政治に左右される隊員を思いやった。

(2014年7月2日朝刊掲載)

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