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社説・コラム

社説 北朝鮮制裁の一部解除 相手のペースに任すな

 北朝鮮に対し、日本が独自に科してきた経済制裁の一部解除する方針が決まった。解除する措置は、人道目的に限った北朝鮮籍船舶の入港禁止▽人的往来規制▽送金の報告義務付け―の三つである。

 日本人拉致被害者らの安否再調査を行う北朝鮮の特別調査委員会について、「かつてない態勢ができた」(安倍晋三首相)と判断したためだ。

 2008年にいったん合意しながら、宙に浮いていた再調査に光明が見えたことは評価できよう。被害者家族も老いるばかりであり、期待は大きい。

 特別調査委員会は、国家の最高機関である国防委員会からあらゆる機関を対象に調査できる「特別な権限」を与えられているという。いいかげんな調査では金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の権威を損なうことになりかねない。

 拉致問題の闇を徹底解明する最後の機会ともいえ、準備は整ったことになるのだろう。

 しかし、過去に横田めぐみさんを含む8人の「死因」を裏付けるとした死亡診断書などが捏(ねつ)造(ぞう)されたいきさつもある。日本から検証チームを派遣することもあり得るが、幕引きに利用されてはなるまい。相手のペースに乗せられず、機会あるごとに、粘り強く要求すべきは要求していきたい。

 ただ、結果が出ない段階で制裁の一部解除に踏み切ったのは、時期尚早の感も否めない。

 今回の日朝協議を2日後に控え、北朝鮮は「スカッド」とみられる短距離弾道ミサイルを日本海に向けて発射した。中韓首脳会談や8月に予定される米韓合同演習へのけん制とみられる。外交の節目の時期に、相手国の近海でなぜ危険な軍事挑発をわざわざ行うのか。

 かえって孤立を深めるばかりの「政治手法」にまずはピリオドを打ってもらいたい。

 北朝鮮が「解決済み」としてきた拉致問題は日本の主権に関わる外交課題であり、国民の関心も高い。時の政権はあらゆる手だてを尽くさなければならないものの、民主党政権下では事態はほとんど動かなかった。安倍政権が、手詰まり状態に一石を投じたのは間違いない。

 しかし、拉致問題を核開発や弾道ミサイルの問題と切り離して先に解決しようとする官邸の動きには、これまでも疑問符が付いてきた。

 北朝鮮への国際包囲網に風穴をあけかねないからだ。韓国外務省はきのう「拉致問題は人道的事案で速やかな解決を希望する」と前置きした上で、日朝協議は透明性を持たなければならない、としている。

 昨年2月に3回目の核実験を強行した北朝鮮は、東アジアの緊張を自ら高めているとしかいいようがない。日本独自の制裁も、国連安全保障理事会の制裁を強化する目的を持っているはずだ。核・ミサイル関連技術の禁輸などの制裁措置を続けるのは当然だろう。

 安倍首相はきのうの記者会見で「行動対行動の原則に従って」という言い回しで制裁一部解除を説明した。引き続き核・ミサイルの問題でも、北朝鮮にその原則に沿うよう求めて協議に臨んでほしい。

 2002年の平壌宣言の趣旨に立ち返れば、日朝の国交正常化に至る道はそれしかないのではないか。

(2014年7月4日朝刊掲載)

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