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社説・コラム

『記者縦横』 被爆者の証言 胸に響く

■尾道支局・新山京子

 6月末、尾道市御調町に住む高齢の被爆者5人が御調高の生徒に体験談を語る会があった。「本当はね、思い出したくないんです」。取材中に聞いたこの一言が、今も頭を離れない。

 3月に尾道支局に着任した。あいさつ回りの中で「今度、御調の被爆者が若者に体験を話すんよ」と教えてもらったのが取材のきっかけだった。ただ正直言って、特別なこととは受け止めていなかった。昨年4月の入社から11カ月後に尾道に異動するまで、報道部で主に広島市政を担当。原爆資料館で被爆者の証言を聞かせてもらう機会が何回かあったからだ。

 でも当日は、一言一言かみしめながらあの日を振り返る被爆者の姿にメモを取る手が止まった。5人のうち4人が人前で語るのは初めてという。家族にも明かしたことがない悲惨な記憶。絞り出される言葉がずっしりと胸に響いた。

 私自身は広島市で生まれ育ち、高校生の時に祖母の被爆体験を初めて聞いた。広島市内で働いていた曽祖父の行方は分かっていない。8月6日が近づくと廃虚になった街が鮮明によみがえる―。涙ぐみながらそう話す祖母と、御調の被爆者の姿が重なった。

 御調町の原爆被害者協議会によると、1970年の結成時に212人いた被爆者の会員は46人まで減った。高齢化が進み、若者が記憶を受け継ぐ時間はそう残されていない。御調高の生徒は今後、聞き取った体験談を絵や書道で表現する。彼らが何を思い、どう伝えていくのか。見守り続けたい。

(2014年7月4日朝刊掲載)

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