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社説・コラム

『潮流』 基地とリスコミ

■防長本社編集部長 番場真吾

 安心安全な地域づくりにはリスク情報を共有するリスクコミュニケーション、つまりリスコミが重要になる。東日本大震災以降、注目され、広く浸透していくことを期待していた。

 だが、肝心の情報発信の鍵を握る行政側の姿勢はどうだろう。足元の山口県を見ても、首をかしげざるを得ない。上関原発の公有水面埋め立て免許の延長問題では、開示された文書は黒塗りだらけだった。

 福島で甚大な被害を出した原発にしてこうである。まして基地、中でも米軍相手となればなおさら、地域にとっての壁は厚い。

 先日、戦闘機の低空飛行を間近に見た。防府市であった航空自衛隊60周年の航空祭。頭上を通過するたび、体全体が音の振動に包まれる。空を周回する機体を見失い、背後から迫られたときは一層すさまじく感じた。中国山地で起きているように、このごう音に不意に襲われたらパニックにもなるはずと実感した。

 基地周辺に住むリスクは騒音だけではない。沖縄県の嘉手納町では、米軍機による部品落下事故が相次ぎ、町議会がこの5月も抗議している。暮らしが脅かされているのに基地からの情報は不足し、住民たちが監視している状態という。

 その沖縄から米海兵隊岩国基地へ、近く空中給油機の移転が始まる。しかし訓練コースを問い合わせても、防衛省は「承知していない」と素っ気ない。市民のリスクに関する情報まで「軍事機密」で片付けてしまっていいわけはない。

 岩国では2017年ごろまでとされる空母艦載機の移転も控える。日米同盟の強化に前のめりな安倍政権に、将来の不安を感じる市民も多かろう。岩国市は騒音など43項目の対策を国に要望している。市民のリスクを少しでも緩和するため、まずリスコミの姿勢が基地問題にも求められるのではないか。

(2014年7月8日朝刊掲載)

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