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社説・コラム

天風録 「きのこ雲の意味」

 日本列島の広島と長崎の位置に、原爆きのこ雲とおぼしきイラストが描かれている。そんな地図を中国重慶市の週刊紙が載せた。「日本がまた戦争をしたがっている」との文言を添えて▲この地図から外れた所が攻められても反撃できる。そう憲法解釈を百八十度変えた安倍政権批判らしい。被爆地にとっては、それでは済まない。きのこ雲の下の惨状を再び、と大陸の核保有国に脅された気がしてくる▲重慶市といえば先の戦争で、日本軍が空爆した地である。だからこそ戦後は広島市と友好都市のちぎりを交わしたではないか。辛酸をなめた市民同士が、何より平和が大切だと確かめ合うために▲植民地から解放してくれたとしてアジアには、原爆投下を是認する考えが根強い。被爆地からすれば歴史認識に関わる深い溝だ。被爆者の肉声で少しずつ埋めてきたはずだが、70年近くたっても、越すに越されぬ溝だ▲全国の被爆者が20万人を割り込んだ。その記憶をわが事として語り伝えていく難しさに、広島の若者たちは悩んでいる。一方、重慶の週刊紙の読者層も青年という。ならば心に留めてほしい。きのこ雲は原爆の威力ではなく、人間的悲惨の象徴であることを。

(2014年7月9日朝刊掲載)

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